社内には、提案書、マニュアル、議事録、過去の事例など、仕事で使う資料がたくさん蓄積されています。こうした資料をAIで検索できるようにすると、ファイル名や保存場所を覚えていなくても、探している内容から目的の資料を見つけられます。
ただし、実際の仕事で使えるかどうかは、導入してみなければ分かりません。そこで本格導入の前に行うのが「PoC」です。難しく考える必要はなく、自社の資料を使ってAI検索を試し、本当に欲しい資料が見つかるか、使いやすいかを確かめるテストです。
社内資料をAIで探せるようにする
社内の資料が増えてくると、「どこに保存したか分からない」「ファイル名を思い出せない」といったことが起こります。AIを使った検索では、ファイル名だけに頼らず、資料に書かれている内容をもとに探せるため、資料探しの方法そのものを変えられます。
ファイル名が分からなくても内容から探せる
一般的なファイル検索では、「2026年度営業資料」のようにファイル名やキーワードを手がかりに探します。そのため、名前を覚えていなかったり、検索した言葉が資料内で使われていなかったりすると、目的のファイルを見つけにくくなります。
AIを使った検索では、「去年作った新入社員向けの研修資料」「A社に提案した動画配信の資料」といったように、探している内容をそのまま入力して検索できます。
ファイル名を正確に覚えていなくても、「何について書かれた資料だったか」が分かれば探せるのが大きな違いです。
資料探しにかかる時間を減らせる
社内資料は、共有フォルダやクラウドストレージなど、さまざまな場所に保存されています。さらに同じような名前のファイルや古い資料が増えると、一つずつ開いて中身を確認するだけでも時間がかかります。
AI検索で目的に近い資料を絞り込めれば、「フォルダをたどる」「検索結果を何件も開く」といった作業を減らせます。
特に、過去の提案書や事例、マニュアルなど、資料が増え続ける環境では効果を感じやすくなります。
まずはPoCで試してみる
AI検索が便利そうに見えても、自社の資料で期待どおりに使えるとは限りません。資料の種類や保存状態、実際に社員がどんな言葉で検索するかによって結果は変わります。そこで、本格導入を決める前に小さな環境で試してみます。
PoCとは「本当に使えるか」を確かめるためのテスト
PoCは「Proof of Concept」の略で、日本語では「概念実証」と訳されます。
少し難しい言葉ですが、ここでは「本格導入する前のお試し」と考えると分かりやすいでしょう。
デモを見るだけではなく、実際の社内資料を使って、
・欲しい資料を見つけられるか
・普段使う言葉で検索できるか
・検索結果は分かりやすいか
・仕事で使える速度で結果が返ってくるか
などを試します。
目的はAI検索そのものの性能を競うことではありません。「自社の仕事で使えるか」を確かめることが重要です。
小さく試せば導入前に問題点も見つけられる
最初からすべての社内資料を対象にする必要はありません。
たとえば営業部門であれば、過去の提案書や商品資料など、普段よく探す資料を一定量用意して試す方法があります。
実際に検索してみると、「この言い方では見つからない」「似た資料が多すぎる」「古い資料まで上位に出てくる」といった問題が見えてきます。
また、本来閲覧できない資料が検索結果に出ないかなど、権限管理の確認も欠かせません。
小さな範囲で問題点を見つけてから改善できることも、PoCを行うメリットです。
普段の資料をAIで検索してみる
PoCでは、テスト用に分かりやすい資料や質問を用意するより、普段の仕事に近い状態で試すことが大切です。実際に社内で使っている資料を対象にして、社員がいつも資料を探すときの言葉で検索してみると、導入後の使い勝手が見えやすくなります。
実際の社内資料を使って試す
PoCで使う資料は、実際の業務で探すことが多いものを選びます。
たとえば、
・過去の提案書
・営業資料
・製品やサービスの資料
・社内マニュアル
・会議資料や議事録
・契約や申請に関する文書
・過去のプロジェクト資料
などです。
最初から社内にあるすべてのファイルを対象にする必要はありません。まずは特定の部署や業務に絞り、「この資料群の中から必要なものを探せるか」を試した方が結果を判断しやすくなります。
また、PDFだけでなく、Word、Excel、PowerPointなど、実際に社内で使っているファイル形式を含めて試しておくと、本番に近い状態で確認できます。
普段使っている言葉で検索してみる
検索するときも、資料に書かれている正確な言葉をわざわざ調べる必要はありません。
「去年A社に出した提案書」
「新人向けの経費精算の資料」
「動画配信のトラブル対応について書かれた資料」
といった、社員が実際に使いそうな言葉で試します。
同じ資料について、検索する人によって言い方が変わるケースも試しておきましょう。
たとえば「経費精算」「立替払い」「交通費の申請」のように、違う言葉から同じ資料へたどり着けるかを見ることで、AI検索の使いやすさを確認できます。
答えがない質問も試してみる
見つかる資料だけを検索していると、AI検索がうまく動いているように見えやすくなります。
そこで、社内資料には答えがない質問もあえて試します。
存在しない製品について聞いたり、資料に書かれていない社内ルールを質問したりして、どのような結果になるかを確認します。
該当する情報がないときに「見つからない」と判断できるのか、それとも関係の薄い資料を無理に提示してしまうのかは重要なチェックポイントです。
AI検索では「見つけられること」だけでなく、「ないものを、あるように見せないこと」も実際の仕事で使ううえでは大切です。
欲しい資料がちゃんと見つかるか確認する
検索を何度か試したら、結果を感覚だけで判断せず、「探していた資料が出たか」「不要な資料が混ざっていないか」といった項目ごとに確認します。特に社内で使う場合は、検索精度だけでなく権限についても確認が必要です。
探している資料が上位に出てくるか
目的の資料が検索結果に含まれていても、何十件も下に埋もれていたら実用的とはいえません。
よく使う資料をあらかじめ決めておき、
・目的の資料が検索結果に出たか
・上位に表示されたか
・どの検索方法なら見つけやすかったか
を記録していきます。
10種類、20種類と検索パターンを用意して結果を残しておけば、「なんとなく使えそう」ではなく、どの程度見つけられたのかを比較できます。
関係のない資料ばかり出てこないか
目的の資料が出ることと同じくらい、不要な資料が出すぎないことも重要です。
たとえば「動画配信の料金について調べたい」と検索したときに、動画配信とは関係があるものの、料金とは無関係な資料ばかり表示されたら、結局一つずつ中身を確認することになります。
目的の資料が見つかるかだけではなく、「検索結果を見たときに、どれを開けばよいか判断できるか」まで確認しておきます。
AI検索を導入したのに、検索結果を延々と確認する作業が残るのであれば、資料探しの時間短縮にはつながりにくくなります。
見てはいけない資料が表示されないか
社内のファイルには、誰でも見てよいものばかりではありません。
人事資料、経営資料、契約書など、部署や役職によって閲覧できる範囲を分けている企業も多いでしょう。
PoCでは、閲覧権限が異なるユーザーでも検索を試します。
一般社員で検索した場合には表示されず、権限を持つ社員で検索した場合には表示される、といった制御が正しく機能するかを確認します。
AI検索が便利でも、本来アクセスできない情報まで検索できてしまえば本番では使えません。検索精度と同じように、権限が正しく反映されるかも導入判断の重要な評価項目です。
実際の仕事を想定していろいろ試してみる
PoCでは、単に検索回数を増やすより、「実際の仕事でどんな資料を探すか」を再現した方が判断しやすくなります。部署や仕事内容によって探す資料は違うため、いくつかの利用場面を用意して試してみましょう。
営業資料や提案書を探してみる
営業では、過去に似た案件を担当したときの提案書や見積もりの参考資料を探す場面があります。
たとえば、
「製造業向けに提案した動画配信の資料」
「去年作ったオンライン研修の提案書」
「100人規模のイベントで使った配信プラン」
といった検索を試します。
会社名やファイル名を正確に覚えていなくても、案件の特徴や内容から目的の資料を見つけられるなら、AI検索を導入するメリットが分かりやすくなります。
反対に、似た案件の資料が大量に表示されて目的のものを絞り込めない場合は、検索方法や対象データを見直す必要があります。
マニュアルや社内ルールを探してみる
マニュアルや社内ルールは、資料そのものを探したい場合だけでなく、「この場合はどうすればいい?」という疑問から探すこともあります。
「出張したときの交通費はどう申請する?」
「取引先へファイルを送るときのルールは?」
「新しいPCを申請する方法は?」
といった、普段の質問に近い言葉で検索してみます。
目的のマニュアルへたどり着けるか、その中の関連する情報を見つけやすいかを確認すると、単なるファイル検索だけでは分からない使い勝手が見えてきます。
過去の資料や似た事例を探してみる
AI検索と相性がよい使い方の一つが、過去の事例探しです。
「以前どこかで似た案件をやった気がするけれど、会社名も時期も思い出せない」という状況では、従来のキーワード検索だけでは探すのが難しい場合があります。
そこで、
「学校向けに動画を使った事例」
「大人数でライブ配信した案件」
「ファイル共有を改善したプロジェクト」
など、覚えている内容だけで検索してみます。
目的の資料だけでなく、本人が存在を知らなかった関連資料まで見つかれば、過去に蓄積した社内データを再利用しやすくなります。
検索結果だけでなく使いやすさも確認する
欲しい資料が見つかることは重要ですが、それだけで本番導入を決めるのは早いでしょう。毎日の仕事で使うことを考えると、検索してから資料を確認するまでの流れや速度、操作の分かりやすさも確認しておく必要があります。
検索結果から目的の情報までたどり着きやすいか
検索結果に正しい資料が表示されても、そこから目的の情報を確認するまでに何度もファイルを開かなければならないと、使い勝手はよくありません。
検索結果を見て、
・どんな資料なのか分かるか
・なぜその資料が検索されたのか分かるか
・ファイルを開く前に中身を確認できるか
・必要な箇所までたどり着きやすいか
といった点も試しておきます。
「見つかったか」だけではなく、「見つけたあとに使いやすいか」までを一連の流れとして確認することがポイントです。
検索に時間がかかりすぎないか
検索結果が正確でも、結果が表示されるまで毎回長く待つようでは、日常的には使われにくくなります。
特にPoCでは少量の資料しか登録していないこともあるため、本番ではデータ量が増えることも考えておく必要があります。
何秒以内なら合格と一律に決めるのではなく、普段の資料探しと比べて十分に使いやすいかという視点で確認すると判断しやすくなります。
実際に使う社員が迷わず操作できるか
PoCを担当している人だけが使って「便利だった」と判断するのではなく、実際に利用する社員にも試してもらいます。
検索方法を詳しく説明しなくても使えるか、どんな言葉を入力すればよいか迷わないか、検索結果を見て目的の資料を選べるかを確認します。
試した人から、
「普段の検索より探しやすい」
「どんな言葉で検索すればいいか分からない」
「結果は出るけれど、どれが正しい資料か判断しにくい」
といった感想を集めることも、PoCの大切な評価材料になります。
AI検索の性能だけを見るのではなく、実際に使う人が仕事の中で使い続けられるかまで確認することで、本番導入後の姿が見えやすくなります。
テスト結果から導入するか決める
PoCの最後は、AI検索が動いたかどうかではなく、「自社の仕事で使えるか」で判断します。検索精度、使いやすさ、権限など、実際に試した結果をまとめて、本番導入する価値があるかを確認します。
「便利だった」だけで判断しない
AIで社内資料を検索すると、これまでとは違う探し方ができるため、最初は便利に感じやすいものです。
ただし、PoCの目的はAI検索を体験することではありません。本番導入するかどうかを判断することです。
たとえば、次のような項目を整理しておくと評価しやすくなります。
| 確認すること | 判断するポイント |
|---|---|
| 検索結果 | 欲しい資料が見つかったか |
| 不要な結果 | 関係のない資料が多すぎないか |
| 権限 | 見てはいけない資料が表示されないか |
| 使いやすさ | 普段使う言葉で検索できたか |
| 速度 | 仕事で待てる時間で結果が出たか |
| 実用性 | 今までの資料探しより楽になったか |
できればPoCを始める前に、「何ができたら導入を検討するか」を決めておきます。
たとえば「用意した検索パターンの多くで目的の資料を見つけられる」「権限設定に問題がない」「実際に使った社員から資料を探しやすくなったという評価が得られる」といった基準です。
先に基準を決めておけば、PoCが終わったあとに印象だけで判断することを避けられます。
自社で使えるかどうかを基準に決める
すべての検索で完璧な結果が出なければ導入できない、というわけでもありません。
大切なのは、自社が解決したかった問題に対して効果があるかです。
「過去の提案書を探す時間を減らしたい」という目的なら、実際にその時間を減らせそうか。「社内マニュアルを探しやすくしたい」のであれば、社員が必要な情報へ迷わずたどり着けるかを重視します。
逆に、目的の資料がなかなか見つからない、権限管理に問題がある、社員が使いにくいと感じるといった結果になれば、そのまま本番導入するのではなく、検索対象や仕組みを見直して再度試す選択肢もあります。
PoCは、AI検索が優秀かどうかを評価するためのものではありません。
実際の社内資料を使い、普段の仕事と同じように検索してみて、「これなら資料探しが楽になる」と判断できるか。それを確かめてから本番導入へ進むことで、導入後に使われない仕組みになるリスクを減らせます。
よくある質問:
Q. PoCでは、どのくらいの社内資料を用意すればいいですか?
A. 最初からすべての社内資料を用意する必要はありません。営業資料、マニュアル、過去の事例など、実際によく探す資料を対象にして、小さな範囲から試すと評価しやすくなります。Q. PoCは情報システム部門だけで行えばいいですか?
A. 実際にAI検索を使う社員にも参加してもらうのがおすすめです。システムとして正しく動くかだけでなく、普段使う言葉で資料を探せるか、検索結果を使いやすいと感じるかも確認できます。Q. PoCでうまく検索できなかったら導入は見送るべきですか?
A. すぐに見送る必要はありません。検索対象の資料、データの整理状態、検索方法などに原因がある場合もあります。何がうまくいかなかったのかを確認し、改善できる問題なのかを見極めてから判断します。


