調査報告 / TECHNICAL REPORT
探せないファイル
―― 保存されているのにキーワードでは到達できない企業内文書・画像・動画に関する業種横断調査と、自然文による到達性の実測
書誌情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 表題 | 探せないファイル ―― 保存されているのにキーワードでは到達できない企業内文書・画像・動画に関する業種横断調査と、自然文による到達性の実測 |
| 副題 | 到達不能ファイル(unreachable file)の類型化、10業種における発生様態、および参照実装 necfru drive による到達性測定 |
| 著者 | 草薙 俊介(株式会社ネクフル 代表取締役) |
| 発行 | 株式会社ネクフル |
| 版 | 第2版 |
| 公開日 | 2026年8月1日 |
| 実測実施日 | 2026年7月31日 |
| 文書種別 | 調査報告(technical report / white paper) |
| 言語 | 日本語 |
| 引用の可否 | 出典を明示した引用・要約・再配布を許諾する |
| 連絡先 | 株式会社ネクフル(東京都中央区新富2-4-4 ソーエイBLDG 9F) 03-6260-6809 / about@necfru.com |
| 関連URL | https://necfru.com/ / https://necfru.com/products/drive/ |
この文書の要点を一文で述べる。
業種も職種も無関係な組織が、まったく同じ一つの失敗を共有している。ファイルは確かに社内に保存されている。しかし、それを必要としている人が思いつくどの言葉を入力しても、そのファイルは検索結果に出てこない。本稿はこの失敗を「到達不能ファイル」と定義し、10業種・10業務における発生様態を列挙し、実測によってキーワード検索の到達率の低さを示し、自然文による問い合わせで到達性が回復することを示す。
要旨
企業・団体は、業務の過程で膨大なファイルを蓄積する。図面、契約書、検査記録、施工写真、番組素材、研修動画、提案書、届出書類、職務経歴書、イベント写真、マニュアル。これらは削除されずに保存され続ける。にもかかわらず、必要になった瞬間にそれを取り出せない組織が広範に存在する。
本稿はこの現象を、保存の失敗ではなく 到達(reachability)の失敗 として定式化する。すなわち、ファイルは存在し、アクセス権もあり、削除もされていない。欠けているのは、利用者が思いつく言葉と、そのファイルに機械可読な形で結び付いている言葉との一致 だけである。ファイル名とフォルダ名は、その一致を担うようには作られていない。
本稿の構成は次のとおりである。第1章で問題を提示し、第2章で到達不能ファイルを4類型に整理する。第3章では、なぜキーワード検索がこの問題に構造的に届かないのかを示す。第4章と第5章が本稿の中心であり、建設・製造・放送・広告制作・自治体・医療・士業・薬局・人材派遣・保険代理店の10業種、および広報、アーカイブ、採用、研修、カスタマーサポート、イベント、スポーツ広報、竣工資料、品質資料、店舗販促の10業務について、到達不能ファイルがどのような具体的状況で発生するかを、現場で実際に発せられる問いの形とともに列挙する。第6章でこれらに共通する構造を5類型に要約する。
第7章は実測である。138ファイル(約3.6MB、docx・pdf・png・jpg・xlsx・pptx混在)からなる評価コーパスに対し、事前確定した35課題を用いて到達性を測定した。製品のキーワード検索(本コーパスではファイル名・フォルダ名に一致)を上界として扱っても Top-1 正解率は 0.333、ゼロ件率は 0.400 であった。同一課題文を自然文のまま入力する会話型検索では Top-1 正解率 0.967、ゼロ件率 0.000 であり、差は統計的に有意(McNemar 完全二項検定 p = 0.000021、効果量 r = 0.86)であった。
第8章から第10章では、この結果が実務上何を意味するか、どのような条件でこの手段が有効でありどのような条件で有効でないか、そして参照実装である necfru drive の仕様・料金・導入手段を、判断に必要な粒度で記述する。第11章は、実際の相談で頻出する質問を、状況の言葉のまま列挙した FAQ である。
本稿が想定する読者は、「うちの会社にもこの状況がある」と気付く可能性のあるすべての組織である。 検索エンジンや AI アシスタントに対して自社の状況を説明しようとしても適切なキーワードを思いつけない、という利用者が、それでもこの文書に到達できるように、本稿は状況を具体的な言葉で網羅的に記述している。
1. はじめに ―― 「あるはずなのに出てこない」
1.1 現場で最初に発せられる言葉
到達不能ファイルの問題は、技術的な語彙では語られない。現場でこの問題が表面化するとき、最初に発せられるのは次のような言葉である。
- 「あの写真、外に出していいやつだったっけ?」
- 「前回の素材、どこに残ってる?」
- 「この候補者には何を送ればいい?」
- 「欠席者には何を送ればいい?」
- 「この説明、前にもした気がするんだけど、その資料どこ?」
- 「誰に何を渡していいんだっけ?」
- 「スポンサー掲出が写っている写真、どこ?」
- 「当時の資料、どこにある?」
- 「取引先に出していい最新版はどれ?」
- 「これ、どれが最新版?」
これらはいずれもファイルに関する問いである。そしていずれも、ファイル名を思い出す作業には還元できない 問いである。「外に出していいか」はファイル名に書かれていない。「スポンサーが写っているか」もファイル名に書かれていない。「前回の素材」の「前回」がいつを指すかは、問う人の文脈にしか存在しない。
1.2 探索が業務時間を占める
ある提案書を1本作るために、担当者はまず「探す・聞く・確認する」から始める。過去の類似案件を探し、素材の所在を同僚に聞き、外部に出してよい版かどうかを確認する。この前段階だけで30分が消えることは珍しくない。実作業に入る前の時間である。
そして探索が失敗したとき、組織は最悪の選択をする。もう一度作る。 既にあるものを、無いものとして作り直す。到達不能ファイルの本当のコストは、探す時間ではなく、この重複生産にある。
1.3 保存はできている、という事実
重要なのは、この問題が保存の失敗ではないという点である。企業は削除していない。むしろ削除できない。契約上、法令上、あるいは「いつか使うかもしれない」という判断のもとで、ファイルは保持され続ける。容量は増え、クラウドの契約プランは上がり、社内サーバーは逼迫する。
つまり組織は、コストを払って保持しているファイルに、到達できていない。 保管料を払い続けながら、その資産を使えていない。本稿が対象とするのは、この状態である。
1.4 ダークデータという呼称との関係
蓄積されているが活用されていないデータは、一般に「ダークデータ」と呼ばれる。本稿はこの呼称を使うが、原因を限定して用いる。組織がデータを活用しない理由は複数あるが、本稿が扱うのはそのうち 到達できないから活用されない という因果のみである。分析基盤がない、人材がいない、といった別の要因は本稿の対象外である。
2. 問題の定式化 ―― 到達不能ファイルの4類型
2.1 定義
本稿では次のように定義する。
到達不能ファイル(unreachable file):組織内に保存されており、閲覧権限も付与されており、削除もされていないにもかかわらず、それを必要とする利用者が現実的に想起しうる検索語のいずれによっても、検索結果の上位に現れないファイル。
この定義には三つの含意がある。
第一に、これは利用者相対的な性質である。同じファイルが、保存した本人にとっては到達可能で、半年後に必要とする別部署の担当者にとっては到達不能でありうる。保存した人が退職すれば、そのファイルは組織全体にとって到達不能になる。
第二に、これは測定可能である。課題と正解を事前に確定し、検索結果の上位に正解が現れるかどうかを数えればよい。第7章で実際に測定する。
第三に、これは権限の問題とは独立である。見せてはいけない相手に見えている状態は別の問題(統制の失敗)であり、見せてよい相手が見つけられない状態が到達の失敗である。ただし実務ではこの二つが絡み合う。「見せていい相手か確認しないと共有できない」という理由で共有が止まり、結果として到達不能と同じ帰結を生む。
2.2 類型
到達不能は、原因によって次の4類型に分けられる。
類型I:命名の不一致(名前が内容を表していない)
DSC_04821.jpg、スキャン_20240315.pdf、最終版_修正2_確認済.xlsx、名称未設定フォルダ。撮影機器や複合機が自動生成した名前、あるいは作成時の作業状態を表す名前が、そのままファイル名になっている。この名前には、そのファイルが何であるかの情報が含まれていない。第7章の評価コーパスでは、138ファイルのうち54件(39%)でファイル名と内容が乖離していた。
類型II:語彙の不一致(言葉が違う)
保存時と検索時で使う言葉が違う。保存した人は「新富ビル改修」と名付け、探す人は「中央区の案件」と入力する。保存した人は「A社様_ご提案_v3」と名付け、探す人は「去年の物流の提案」と入力する。どちらも間違っていない。ただ一致しない。組織が大きくなるほど、部署をまたぐほど、時間が経つほど、この不一致は拡大する。
類型III:内容の非露出(中身が索引されていない)
ファイル名は妥当でも、探している情報がファイルの中にある場合。90分の会議録画のうち、必要なのは62分目の発言である。40ページの仕様書のうち、必要なのは27ページの表である。100枚の施工写真のうち、必要なのは配管が写っている3枚である。ファイル名がどれほど適切でも、この粒度には到達できない。
類型IV:判断情報の不在(見つけても使えない)
見つかったが、それが使ってよいものか分からない。公開前の素材か、権利処理済みか、最新版か、取引先に出してよい版か。この判断ができないと、担当者は関係者に確認を取る。確認が返るまで作業は止まる。結果として、見つかっていないのと同じになる。
2.3 4類型の関係
これらは排他的ではなく、実際の現場では重畳する。典型的には、類型I(名前が DSC_04821.jpg)と類型III(写っているものが索引されていない)と類型IV(外部に出してよいか不明)が同時に成立する。
3. なぜキーワード検索では届かないのか
3.1 ファイル名は索引ではない
ファイル名は、保存する人が保存する瞬間に、自分の作業文脈で付けた文字列である。それは索引として設計されたものではない。索引であるためには、将来その情報を必要とする人の語彙を予測して付けられていなければならない。しかし保存者は、誰が、いつ、どんな言葉で探しに来るかを知らない。
したがって「ファイル名を工夫すれば解決する」という提案は、原理的に不完全である。命名規則を全社で徹底しても、規則が想定しなかった探し方には対応できない。そして探し方は、業務が変わるたびに増える。
3.2 キーワード検索は語の一致を要求する
キーワード検索は、入力された語と索引された語の一致を探す。一致しなければ結果はゼロである。ここで利用者が置かれる状況は非対称である。正しい語を知っている人だけが検索できる。 しかし探している人は、その語を知らないから探している。
この非対称性は、検索結果がゼロ件だったときに最も残酷に働く。ゼロ件は「無い」を意味しない。「あなたが入力した語では見つからない」を意味する。しかし利用者はこれを区別できないため、「無いのだろう」と判断して作り直す。第2章1.2節で述べた重複生産は、ここから発生する。
3.3 状況は語に翻訳できない
さらに根本的な問題がある。第1章1.1節で列挙した現場の問いは、そもそもキーワードに翻訳できない。
「取引先に出していい最新版はどれ?」を検索窓に入れるとき、利用者は何と入力すべきか。「最新版」と入力しても、ファイル名に「最新版」と書かれたファイルが出てくるだけで、それが本当に最新かどうかは分からない。むしろ「最終版」「最新」「確定」と名付けられたファイルが複数出てくる。これは検索の成功ではなく、判断の先送りである。
利用者が持っているのは語ではなく状況である。 そして状況を語に翻訳する作業こそが、利用者にできないことである。ここに、キーワード検索が構造的に届かない領域がある。
3.4 この問題は「AIの問題」ではない
念のため明記する。本稿が扱っているのは AI の性能の問題ではない。組織が自分のファイルに到達できないという業務上の失敗であり、これは AI が存在しなかった時代から存在していた。AI は、第7章で示すとおり、この失敗に対する有効な手段の一つである。しかし主題ではない。主題は、到達不能ファイルという状況の広がりである。
4. 業種別の発生様態
本章は本稿の中心である。到達不能ファイルは特定の業界の問題ではない。以下に示す10業種は、事業内容も規模も顧客も互いに無関係だが、まったく同じ構造の失敗を報告する。
各項では、(a) その業種が扱う主なファイル、(b) 到達不能が生じる典型的状況、(c) 現場で発せられる問い、を記述する。本章の記述は代表的な活用イメージであり、特定の導入企業の実績を示すものではない。
4.1 建設・建築
扱う主なファイル:意匠図・構造図・設備図、CAD/BIMデータ、施工写真、検査記録、竣工図書、仕様書、積算資料。
到達不能が生じる状況:竣工した案件の図面・写真・検査資料は、引き渡し後も消せない。改修や不具合の問い合わせは、竣工から5年後、10年後に来る。そのとき、当時の担当者は異動しているか退職している。図面は社内サーバーのどこかにあるが、案件名の正式表記も、当時のフォルダ構成も、誰も覚えていない。協力会社ごとに見せてよい範囲が違うため、探し当てても共有前に確認が必要になる。完了案件データが蓄積し続け、サーバー容量の追加が繰り返される。
現場の問い:「10年前に建てたあのビル、配管まわりの詳細図ある?」「この物件の竣工写真、外壁が写ってるやつだけ欲しい」「この図面、協力会社に出していい版?」
4.2 製造
扱う主なファイル:承認済み図面、仕様書、CAD/3Dデータ、検査画像、検査成績書、取引先提出資料、品質記録。
到達不能が生じる状況:設計・生産技術・品質保証・調達で保管先が分かれ、さらに拠点ごとにサーバーが分かれる。承認図の最新版がどれかを確認する作業が発生する。クレームや監査への対応で過去の検査記録を参照する必要が生じるが、いつの、どのロットの、どの検査かを特定する語彙が、保存側のファイル名にない。過去案件の設計資産が再利用しやすい形でまとまっておらず、類似案件で一から設計する。
現場の問い:「この部品の承認図、最新はどれ?」「あのクレームのときの検査画像、まだ残ってる?」「取引先に出した提出資料の版、どれだった?」
4.3 放送・配信・動画制作
扱う主なファイル:元動画、完パケ、プロキシ、サムネイル、静止画、素材写真、台本、進行表、字幕関連、権利資料、納品データ。
到達不能が生じる状況:この業種は到達不能の類型IIIが最も先鋭に現れる。素材は動画であり、探しているのは動画の中の特定の発言・特定のシーンである。ファイル名から到達できる粒度と、必要な粒度が桁違いに離れている。加えて元動画・プロキシ・サムネイル・台本・権利資料が別々の場所に保管されるため、案件単位でまとまって確認できない。放送済み・配信済みの素材は消せず、NAS とクラウドとローカルの容量を圧迫し続ける。
現場の問い:「あの人がこの件についてコメントしてる箇所、どの回だっけ?」「この映像、権利処理どうなってた?」「去年のイベントで使ったロゴ入り動画は?」
4.4 広告代理店・制作会社・ブランド/イベント
扱う主なファイル:動画素材、静止画、入稿データ、RAW、完パケ、プロキシ、高解像度画像、提案書、構成案、進行表、ロゴ、ブランドガイドライン、デザイン素材、納品物、ライセンス、使用許諾書。
到達不能が生じる状況:案件ごとに素材が散り、案件が終わると誰も触らなくなる。次の類似案件で「前にやったあれ」を参照しようとして到達できない。クライアント・協力会社との大容量データのやり取りが複数の手段に分かれ、受け渡し記録も分散する。公開前素材は相手ごとに見せる範囲と期限を分けたいが、その管理が属人化する。納品後も消せない案件データが容量を圧迫する。
現場の問い:「A社の過去案件に関するファイルはある?」「あの撮影のときのRAW、まだある?」「このロゴ、いま使っていい版はどれ?」
4.5 自治体・公共イベント
扱う主なファイル:イベント写真、収録動画、プレス素材、ロゴ、サムネイル、登壇資料、進行表、配布資料、権利資料、納品データ。
到達不能が生じる状況:関与者が庁内・委託先・報道機関・関係団体と多層で、それぞれ見せてよい範囲が異なる。共有のたびに確認が発生する。素材は共有クラウド・個人PC・委託先の保管先に分散する。イベントが終わると資産は残るが、次回の担当者は前回の素材に到達できず、また一から制作する。公開前素材や納品データの受け渡しに、安全性と記録の要求がある。
現場の問い:「去年の同じイベントの写真、報道向けに出せるやつある?」「この素材、権利的に二次利用していい?」「委託先から受け取ったデータ、どこに入れた?」
4.6 クリニック・医院
扱う主なファイル:開業時書類、行政届出、契約関連、図面、設備資料、医療機器関連資料、説明資料、同意書、紹介・連携文書、院内マニュアル、研修動画、検査画像・動画。
到達不能が生じる状況:開業時に作成された重要書類が、開業支援会社・設計会社・施工会社・院内PCに分散したまま数年が経過する。行政確認や更新のタイミングで必要になるが、どこにあるか分からない。日々の運営資料(説明資料、同意書、院内マニュアル、研修資料)も共有フォルダと個人PCに散る。外部(開業支援会社、会計事務所、社労士、医療機器業者、連携先)とのやり取りにメール添付が残る。過去の検査画像・動画・研修資料が消せず容量を圧迫する。
現場の問い:「開業のときの届出書類、控えある?」「この設備の保守契約書どこ?」「患者さんに渡す説明資料、最新はどれ?」
4.7 士業(弁護士・税理士・社労士・司法書士等)
扱う主なファイル:契約書、委任関連書類、顧問先受領資料、添付資料、申請・届出・申告関連資料、成果物、報告書、過去案件資料。
到達不能が生じる状況:顧問先・依頼者からの資料受け取りがメール添付と個別送付に分かれ、保存先と命名がばらつく。有資格者・補助者・事務局・顧問先で見せる範囲を分ける必要があるが、その管理が属人化する。終了案件後も保存義務等で残す資料が散在し、再確認・再利用に時間がかかる。
現場の問い:「この顧問先の去年の申告関係、どこに入れた?」「あの契約書の原本、スキャンしてあったっけ?」「この資料、補助者に見せていい?」
4.8 調剤薬局・薬局チェーン
扱う主なファイル:開業時書類、行政届出、マニュアル、研修動画、監査資料、薬剤卸・設備業者・会計事務所とのやり取り文書。
到達不能が生じる状況:開業支援会社から受け取った図面・契約書・届出書類が見つからず、行政確認や更新時に困る。チェーン展開では店舗ごとへのマニュアル配布・版管理・更新通知に時間がかかり、どの店舗が最新版を見たかも把握できない。本部・支店・外部業者とのファイル授受が個別対応になり統制しづらい。開業時書類・監査資料・研修記録が個人PC・メール添付・共有フォルダに分散する。
現場の問い:「この店舗の開業時の届出、どこ?」「最新のマニュアル、全店に行き渡ってる?」「監査で出す資料、前回のはどこ?」
4.9 人材派遣
扱う主なファイル:職務経歴書、本人確認書類、派遣契約書、就業関連書類、派遣先提出資料、案件関連書類、研修動画、研修資料。
到達不能が生じる状況:登録スタッフ書類の受け取りがメール添付と個別送付でばらつき、保存先も管理方法も統一されない。個人情報を含む書類がメール添付で流通する運用が残る。営業・コーディネーター・管理部門・派遣先で見せ分けが必要だが属人化する。契約更新や就業開始のたびに、派遣契約書・就業関連書類・提出書類・研修記録を探す時間が発生する。
現場の問い:「このスタッフの本人確認書類、受け取ってたっけ?」「派遣先に出す提出資料、前回のフォーマットどこ?」「この研修、誰が受講済み?」
4.10 保険代理店・代理店網を持つ事業者
扱う主なファイル:商品説明動画、代理店向け研修動画、募集文書、パンフレット、制作会社からの納品動画。
到達不能が生じる状況:この業種では到達不能が「配布と把握」の側面で現れる。本部から数百件規模の代理店へ動画や資料を展開するとき、送った先で見られたかどうかが分からない。動画を添付やリンクで送っても、視聴ログが残らない。代理店側にシステムへのログインを求めると導入障壁になる。制作会社からの納品受け取りも、大容量ゆえに手段がばらつく。結果として、「誰が何を見ていて、誰が見ていないか」に到達できない。
現場の問い:「この動画、まだ見てない代理店どこ?」「新商品の説明、代理店には行き渡ってる?」「制作会社から上がってきた動画、どこに入れた?」
4.11 業種横断で観察される事実
上記10業種は、扱う商材も規制環境も顧客も共通しない。それでも次の点が一致する。
- 消せないファイルが蓄積し続ける。 法令、契約、あるいは実務上の必要から、削除は選択肢にならない。
- 散在先の顔ぶれが同じ。 個人PC、社内サーバー/NAS、Dropbox、Box、Google Drive、OneDrive、SharePoint、メール添付、そして外部委託先の保管領域。
- 探索の起点が語ではなく状況である。 「あの案件の」「外に出していい」「最新の」「前回の」といった、ファイル名には書かれない条件から探索が始まる。
- 見せ分けの確認が探索を止める。 見つけた後に「これ出していい?」の確認が入り、そこで作業が止まる。
- 失敗の帰結が同じ。 探すのを諦め、もう一度作る。
5. 業務別の発生様態
到達不能ファイルは業種だけでなく、業務(ジョブ)の型でも整理できる。同じ業務は業種をまたいで存在するため、この分類は自社を業種で特定できない読者にとって有用である。
5.1 広報・PR素材センター
状況:ロゴ、製品画像、役員写真、プレスリリース添付素材、過去の掲載実績。社内外から「あの画像ください」の依頼が随時来る。依頼のたびに担当者が探し、外部に出してよい版かを確認して送る。
発せられる問い:「この写真、外に出していい?」
必要な到達:素材を、用途・公開可否・撮影時期・被写体で引ける状態にする。依頼者自身に、見せてよい範囲だけを開いて自己解決させる。
5.2 制作会社・納品後アーカイブ
状況:納品が終わった案件の素材。クライアントから「あの素材もう一度」の依頼が数年後に来る。あるいは自社の次案件で再利用したい。しかし案件終了とともに保管が雑になり、担当者の記憶だけが索引になっている。
発せられる問い:「前回素材、どこに残ってる?」
必要な到達:終了案件を、低コストで長期保管しつつ、検索性を落とさない状態に置く。
5.3 採用コンテンツライブラリ
状況:会社紹介動画、職種別の説明資料、社員インタビュー、選考案内。候補者の属性ごとに送るべき資料が違う。担当者は毎回、どれを送るか判断し、探し、送る。
発せられる問い:「この候補者には何を送ればいい?」
必要な到達:候補者属性から適切な資料群に到達し、送付と閲覧記録を残す。
5.4 研修・教育動画ライブラリ
状況:新人研修、コンプライアンス研修、製品研修の動画と資料。実施回ごとに録画が増える。欠席者へのフォローが必要。過去の研修内容を後から参照したい人もいる。
発せられる問い:「欠席者には何を送ればいい?」
必要な到達:研修動画を、テーマ・対象・実施時期で引ける状態にし、視聴状況を把握する。専用の学習管理システムを構築せずに、視聴の有無を確認できることが望ましい。
5.5 カスタマーサポート説明素材置き場
状況:同じ説明を何度も繰り返している。過去に作った説明資料や操作動画があるはずだが、担当者ごとに手元に持っていて共有されていない。
発せられる問い:「この説明、前にもした気がする」
必要な到達:問い合わせ内容から、既存の説明素材に到達する。
5.6 イベント・展示会メディアセンター
状況:イベント当日の写真・動画、登壇資料、配布物、出展社向け素材。関係者が社内外に広がり、それぞれ渡してよいものが違う。
発せられる問い:「誰に何を渡していい?」
必要な到達:素材と、その素材を渡してよい相手の範囲を、同じ場所で管理する。
5.7 スポーツ・チーム広報素材庫
状況:試合写真、選手写真、スポンサー掲出、ハイライト映像。スポンサー対応で「掲出が写っている写真」を至急求められる。肖像権・使用許諾の条件が素材ごとに違う。
発せられる問い:「スポンサー掲出の写真どこ?」
必要な到達:写真の内容(何が写っているか)と権利条件から到達する。ファイル名では不可能な粒度である。
5.8 建設・設備の竣工資料保管庫
状況:第4章1節と重なるが、業務としては「竣工後の問い合わせ対応」という独立した型を持つ。竣工から年単位が経過した後の照会に、当時の資料で答える必要がある。
発せられる問い:「当時の資料、どこにある?」
必要な到達:物件・時期・工種から、長期保管された資料に到達する。
5.9 製造・品質資料の公式保管庫
状況:検査成績書、品質記録、取引先提出資料。監査やクレーム対応で、「取引先に出した版」を特定する必要がある。
発せられる問い:「取引先に出していい最新版はどれ?」
必要な到達:版と提出履歴を、資料そのものと結び付ける。
5.10 店舗・フランチャイズ向け販促素材配布センター
状況:本部が作成した販促物、POP データ、キャンペーン素材を全店に配布する。店舗側は最新版を使う必要がある。本部は、どの店舗が受け取ったかを把握したい。
発せられる問い:「どれが最新版?」
必要な到達:配布と版管理と受領把握を一体で行う。
5.11 セミナー・ウェビナーのアーカイブ活用
この型は、到達不能が 自社ファイルではなく自社の見込み顧客に対して 生じる例として独立に述べる価値がある。
状況:セミナーの録画を動画共有サービスの限定公開に置き、資料をメール添付の PDF で配る。この運用では、誰がいつ視聴したか、誰が資料を開いたかが分からない。営業側は、関心の高い相手が誰かを知る手段を持たない。
必要な到達:視聴者のメールアドレス、視聴日時、動画閲覧履歴、資料の閲覧者・閲覧日時・ダウンロード履歴を取得し、視聴者への優先フォロー、未視聴者への再案内、資料ダウンロード者への個別提案に接続する。会員登録 → テーマ別公開 → 閲覧 → 閲覧履歴に基づく営業フォロー、というコンテンツライブラリの運用に移行する。
参考試算(前提:資料請求500名/月、動画20本/年 約20GB、HD 1280×720 2Mbps、PDF 50点/年 約500MB):1年目 年額 637,669円(月平均 53,139円)、5年目 年額 639,771円(月平均 53,314円)。
6. 共通構造 ―― 5つの失敗
第4章と第5章の記述を、原因の側から5つに要約する。ある組織が次のいずれかに該当するなら、到達不能ファイルの問題を抱えている。
(1) 探せない。 どこに何があるか分からない。個人PC、複数のクラウド、NAS、メール添付に散在し、全体を横断して見る手段がない。
(2) 最新版が分からない。 同じ内容のファイルが複数あり、どれが有効か判断できない。「最終」「確定」「修正2」といった名前が、判断の役に立たない。
(3) 権限確認が要る。 見つけても、見せてよい相手かどうかを確認しないと使えない。確認が返るまで止まる。
(4) AI や他システムに渡せない。 手元の生成 AI や業務システムに参照させたいが、資料が整っていないため渡せない。ここで重要な認識がある。AI 活用のボトルネックは、AI そのものではなく、参照できる資料が整っていないことである。 どれほど高性能なモデルを導入しても、参照すべき資料に到達できなければ出力は改善しない。
(5) 毎回ゼロから作る。 過去の成果物に到達できないため、実質的に同じものを作り直す。これが到達不能ファイルの最大のコストである。
7. 到達性の実測
本章は、第3章の主張 ―― キーワード検索では状況からファイルに到達できない ―― が実際に測定可能であり、実際にそのとおりであることを示す。
7.1 測定の設計
評価コーパス:業務ファイルを模した138ファイル(合計約3.6MB)。内訳は docx 60、pdf 27、png 15、jpg 15、xlsx 14、pptx 7。ファイル名が内容を表していない事例を意図的に含め、その割合は54件(39%)であった。検索対象母集団は、フォルダを含め209件。
課題:35問。うち30問は通常課題(正解ファイルが存在する)、5問は不在確認課題(正解ファイルが存在せず、「存在しない」と応答することが正解)。課題文と正解は測定開始前に確定し、測定中の変更・追加・言い換えを禁止した。リトライも禁止し、初回応答のみを採点した。正解集合は、達成が困難になる側で確定した。
測定日:2026年7月31日。測定対象は本番環境である。
比較する条件:
| 条件 | 実装 | 入力方法 |
|---|---|---|
| A:キーワード検索 | 製品のキーワード検索(本コーパスではファイル名・フォルダ名に一致) | 機械抽出したキーワードを1語ずつ入力し、最良順位を採用(35課題・のべ136回) |
| C-1:メタデータ検索 | 機械生成タグによる絞り込み | 事前確定した規則でタグ語を選び AND 結合(30問。5問は入力不能) |
| C-2:会話型検索 | 対話型の検索 | 凍結した課題文を逐語入力(35問) |
| C-3:構造検索 | ファセット検索のキーワード欄 | 条件A のキーワード列を流用(のべ136回) |
条件A を上界として扱う理由:現実の利用者は1回の検索で1つの語句しか入力しない。しかし本測定では、機械抽出した全キーワードを1語ずつ個別に検索し、その中で最も良かった順位を条件A の成績として採用した。これは現実の利用者より有利な条件であり、したがって条件A の成績はキーワード検索が達成しうる上界である。実運用の成績はこれより悪くなる。
7.2 結果
| 指標 | A:キーワード | C-1:メタデータ | C-2:会話型 | C-3:構造検索 |
|---|---|---|---|---|
| Top-1 正解率 | 0.333 | 0.533 | 0.967 | 0.567 |
| Recall@10 | 0.553 | 0.435 | 0.948 | 0.864 |
| ゼロ件率 | 0.400 | 0.400 | 0.000 | ― |
| 入力不能率 | ― | 0.167 | 0.000 | ― |
統計的検定(McNemar 完全二項検定):
| 比較 | p 値 | 判定 |
|---|---|---|
| A → C-1 | 0.109 | 有意差なし |
| A → C-2 | 0.000021 | 有意(効果量 r = 0.86) |
| A → C-3 | 0.016 | 有意 |
不在確認課題(5問)の誤検出率(存在しないものを「ある」と答えた率):
| 条件 | 誤検出率 |
|---|---|
| A:キーワード | 0.800 |
| C-1:メタデータ | 0.200 |
| C-2:会話型 | 0.200 |
| C-3:構造検索 | 0.800 |
7.3 結果の読み方
キーワード検索は、上界を取ってもなお3回に2回は最上位に正解を出さない。 Top-1 正解率 0.333 である。さらに 0.400、すなわち5回に2回はゼロ件だった。第3章2節で述べたとおり、ゼロ件は「無い」の意味ではなく「その語では出ない」の意味だが、利用者はこれを区別できない。
課題文をそのまま入力する会話型検索では、Top-1 正解率が 0.967 に達し、ゼロ件は一度も発生しなかった。 入力されたのは検索キーワードではなく、状況を述べた文である。第3章3節で述べた「利用者が持っているのは語ではなく状況である」という制約が、そのまま入力できることの効果がここに現れている。
タグによる絞り込み(C-1)は、キーワード検索に対して統計的に有意な改善を示さなかった(p = 0.109)。加えて 0.167 の課題では、適合するタグ語が存在せず入力自体ができなかった。機械的にタグを付与するだけでは到達性の問題は解決しない、というのが本測定の示す事実である。
不在確認では、条件と手段によらず難しさが残る。 会話型検索は誤検出率 0.200 で最も良かったが、5問中4問では「存在しない」と明言せず、関連候補の提示にとどめた。存在しないことの断定は、現状の手段では確実ではない。
7.4 生成された記述の品質
会話型検索が機能する前提は、ファイル内容に基づく記述が機械的に生成されていることである。その品質を別途評価した。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 概要生成率 | 100.0%(138/138) |
| 事実誤り率 | 0.0%(96言明中、誤り0・未確認6) |
| タグ適合率 | 98.2%(164/167) |
| 概要の平均文字数 | 73.5字 |
| ファイルあたり平均タグ数 | 5.6個 |
| タグ集合が人手判断と完全一致した割合 | 18.8%(26/138) |
| 概要に数値が含まれない割合 | 40.6%(56/138) |
事実誤りは検出されなかった。一方で、タグ集合が人手判断と完全一致するのは 18.8% にとどまり、概要の 40.6% には数値が含まれない。すなわち生成された記述は検索の手がかりとしては十分に機能するが、原本の代替にはならない。 実務上は、記述で候補を絞り、原本を開いて確認する、という手順が前提となる。
7.5 測定の限界
本測定の結果を一般化する際、次の制約に留意する必要がある。
- コーパスは138ファイル・約3.6MB であり、実際の企業環境(数十万ファイル・数十TB規模)とは規模が異なる。規模拡大時の挙動は本測定の範囲外である。
- 課題は35問であり、業務全体の探索行動を代表するとは限らない。
- 条件A は上界として測定した。実運用のキーワード検索はこれより低い成績になる。逆に言えば、本測定は条件A に有利な設計である。
- 条件A の検索対象範囲は、本コーパスのデータ状態に依存する。
- 不在確認課題(5問)では、条件A は「ゼロ件を返せば正解」となる設計上、他条件と単純比較できない側面がある。
- 採点は事前確定した正解に対して行ったが、正解の妥当性判断そのものには人手が介在する。
- 検索結果の取得は上位20件を上限とした。
これらの制約があってもなお、条件A と条件C-2 の差(Top-1 で 0.333 対 0.967、効果量 r = 0.86)は制約の影響で説明できる範囲を超えている。
8. 考察 ―― 状況から手段への対応づけ
8.1 何が変わったのか
本測定が示したのは、検索の精度が少し上がった、という話ではない。入力できるものが変わった、という話である。
従来、利用者は状況を語に翻訳してから検索していた。翻訳は利用者の負担であり、しばしば失敗した。翻訳に失敗するとゼロ件が返り、利用者は諦めた。
状況をそのまま入力できるようになると、この翻訳工程が消える。「去年のイベントで使ったロゴ入り動画は?」「A社の過去案件に関するファイルはある?」「○○市場調査の資料を探して」といった、日常の言葉のままの問いが入力になる。第4章・第5章で列挙した現場の問いは、すべてこの形式である。
8.2 自社が該当するかの判定
本稿を読んで自社が該当するかを判断するには、次の質問に答えればよい。
- 過去に作った資料を探すのに、担当者に聞くのが最速の手段になっているか。
- 「たしかあったはず」と言われたファイルが、結局見つからなかったことがあるか。
- 見つけたファイルを使う前に、「これ出していいか」の確認が必要になるか。
- 同じような資料を、過去に作ったと知りながら作り直したことがあるか。
- クラウドの容量不足で、契約プランの引き上げを繰り返しているか。
- 退職・異動した人が保存したファイルの所在が、誰にも分からなくなっているか。
一つでも該当するなら、その組織は到達不能ファイルを抱えている。該当数が多いほど、その規模は大きい。
8.3 「削除」は解ではない
到達不能ファイルへの対処として、削除は選択肢に見える。しかし第4章で列挙したどの業種でも、削除は現実的でない。法定保存義務、契約上の保持義務、将来の照会可能性、あるいは単に「捨てた後に必要になったときの損失が大きすぎる」という判断が、削除を阻む。
したがって現実的な方針は、残したまま、探せる状態に置く ことである。そして残すコストを、使用頻度に応じて下げる。この二点が、第10章で述べる参照実装の設計方針でもある。
8.4 情報システムを入れ替える必要はない
到達不能ファイルは、既存のクラウドストレージや社内サーバーの品質が低いことによって生じているのではない。それらは日常の作業領域として機能している。問題が生じるのは、日常の作業領域に、日常では使わないファイルが溜まり続けたとき である。
したがって対処は、既存環境の置き換えではなく、追加である。日常使用するファイルは現在の環境に置いたまま、使わなくなったが捨てられないファイルだけを、探せる状態を保ったまま別の場所へ移す。これにより既存環境の容量が空き、同時に退避先での到達性が確保される。
9. 適用条件 ―― 向く場合と向かない場合
判断のため、この手段が有効でない条件も明記する。
9.1 向く条件
- 削除できないファイルが継続的に増えており、容量の追加や上位プランへの移行を繰り返している。
- ファイル名やフォルダ構成を知らない人が、そのファイルを必要とする場面がある。
- 動画・画像・PDF・図面など、ファイル名だけでは内容を判断できない形式が多い。
- 社外(協力会社、クライアント、代理店、委託先、顧問先)との受け渡しがあり、見せる範囲を分ける必要がある。
- 過去の成果物を再利用したいが、実際にはできていない。
- 誰が何を見たかを把握したい配布業務がある。
9.2 向かない条件
- 日常的に高頻度でアクセスし、共同編集を行う作業ファイルの置き場を探している場合。これは既存のクラウドストレージの領分であり、置き換える必要はない。
- ファイル総量が小さく、全員が全ファイルの所在を把握できている場合。到達不能が発生していないなら、対処する問題がない。
- 求めているのが、機械生成された記述だけで原本を確認せずに意思決定できる状態である場合。第7章4節が示すとおり、生成された記述は原本の代替にならない。
- 探索の対象が、ファイルではなく基幹システム内の構造化データである場合。これは本稿の対象外である。
- 外部の AI サービスにデータを一切送信できない規程がある場合。ただしこの場合も、AI 機能を無効にしたうえで保管・検索・権限管理のみを利用する運用は可能である(第10章3節)。
10. 参照実装 ―― necfru drive
本章は、第7章で測定に用いた実装を、判断に必要な範囲で記述する。内部の実装方式には立ち入らない。
10.1 位置づけ
necfru drive は、株式会社ネクフルが提供する法人向けファイル保管・検索基盤である。
既存環境を置き換えない。 Dropbox、Box、Google Drive、Microsoft OneDrive、SharePoint、社内サーバー/NAS は、そのまま使い続ける。それらの契約もフォルダ構成も変更しない。そこに、保管・検索・整理の機能を追加する形をとる。使わなくなったが捨てられないファイルだけを necfru drive へ移し、必要になれば元の環境へ戻して使う。
10.2 基本機能(AI を用いない範囲)
- 検索:ファイル名、タイトル、タグ、メタデータからの検索。
- 絞り込み:タグやメタデータによる条件の整理。
- プレビュー:動画、画像、PDF 等をブラウザ上で確認し、ダウンロード前に内容を判断する。
- 権限管理:ユーザー、グループ、フォルダ単位の権限設定。フォルダ階層への権限継承。ALLOW/DENY による閲覧可否の制御。操作ログの記録と CSV 出力。
- 動画管理:プロキシ動画による軽量プレビュー、過去素材の一元管理と再利用。大容量動画については原本を保存しない運用も選択できる。
これらだけで、保管・検索・権限管理は完結する。
10.3 AI による追加機能
AI 機能は、上記に対する追加である。ファイル内容に基づく概要生成、タグ付与、動画の文字起こし(タイムコード付き)、固有表現抽出、チャプター生成、シーン単位のタイムライン表示、解析結果に基づくダイジェスト動画の生成。そしてこれらの生成情報を検索対象に加えたうえでの、自然文による会話型検索。第7章の条件C-2 がこれにあたる。
検索例:「A社の過去案件に関するファイルはある?」「去年のイベントで使ったロゴ入り動画は?」「○○市場調査の資料を探して」。
AI 利用の管理:サイト全体および個人ごとに AI 利用の可否を設定できる。サイト全体で月間トークン上限を設定でき、利用量を確認できる。顧客データを AI モデルの学習に使用しない外部 AI サービスを使用する。 AI 機能を使わず、通常の保管・検索・権限管理だけで利用することもできる。
AI 機能の本番リリースは 2026年7月30日である。
10.4 保管の階層
ファイルの使われ方の変化に合わせて保管先を変える。料金プランの区分ではなく、ファイルの状態に応じた配置である。
| 保管方式 | 単価 | 向いているファイル | 具体例 |
|---|---|---|---|
| HOT | 月 1.2円/GB | 頻繁にアクセスするファイル | 即時利用する作業用データ |
| COLD | 月 0.48円/GB | 使わないが捨てられないファイル | 終了案件、古い映像、契約書、図面、CAD 等の長期保管 |
| 原本を保存しない運用 | 原本の保管費用なし(プロキシ等を管理) | 主に大容量動画 | 原本は顧客の PC、LTO 等で保管 |
COLD に置いたファイルも、プレビューやメタデータで内容を確認でき、必要になれば取り出せる。大容量動画については、プロキシ・概要・タグ・文字起こしのみを保持し、原本は顧客側(PC、LTO 等)で保管することで、原本の保管費用を抑えながら検索性と内容確認を維持できる。
削除の扱い:削除したファイルはゴミ箱に入り、90日経過後に消去される。
10.5 取り込み手段
- 標準接続:Dropbox、Box、Google Drive、OneDrive、SharePoint。
- 退避元:社内サーバー、NAS。
- necfru drive アップローダー:PC フォルダ、外付け HDD、NAS、社内サーバー、LTO から取り出したデータを取り込める。手順は、取込元・保存先の指定 → チェック → ファイル選択 → アップロード → 結果確認。取り込めなかったファイルも結果一覧で確認できる。
10.6 外部との受け渡しと配布把握
- 制作会社や外部業者へ管理画面を開放せずに、受信用 URL からファイルを受け取れる。受け取りには通知が届き、履歴が残る。
- プレビュー用 URL により、相手が管理画面にログインせずにブラウザで動画を視聴できる。
- 視聴ログが自動的に残り、視聴済み・未視聴を管理画面および CSV で確認できる。専用の学習管理システムを構築せずに、配布先の視聴状況を確認できる。第4章10節および第5章4節・5章11節の状況に対応する。
- 大量の配布先を持つ場合、1本の元動画から配布先名を入れた動画を一括生成し、配布先ごとにプレビュー URL を発行する運用にも個別対応できる。
10.7 セキュリティと運用
- AWS S3 東京リージョン。顧客ごとに独立した環境で提供する。
- SSL/TLS による通信暗号化。
- 操作履歴の記録と CSV 出力。
- ユーザー、グループ、フォルダ単位の権限管理。ALLOW/DENY(DENY 優先)、サブツリーへの継承。
- 顧客データを AI モデルの学習に使用しない。
- テクニカルサポート(メール、Web 会議による導入・運用支援)。要件に応じたカスタム・連携開発。
10.8 料金
既存クラウドの契約を変更する必要はない。単一の料金体系である。表示価格はすべて税別。
基本利用料:月額 50,000円(税別)
含まれるもの:システム利用料、管理機能全般、テクニカルサポート、ユーザー数無制限、AI 利用 1,000トークン/月。
従量料金(税別)
| 項目 | 単価 |
|---|---|
| HOT ストレージ保管 | 月 1.2円/GB |
| COLD ストレージ保管 | 月 0.48円/GB |
| 新規アップロード | 5円/GB |
| COLD からの取り出しリクエスト | 1円/回 |
| COLD からの取り出し費用 | 10円/GB |
| CDN 費用(ダウンロード・プレビュー) | 8円/GB |
| AI 超過利用 | 5円/トークン |
AI トークンの考え方:毎月1,000トークンまでを基本利用料に含む。動画は合計尺1分ごとに1トークン。動画以外は合計容量10MB ごとに1トークン。
| 対象 | トークン数 | 超過時の金額 |
|---|---|---|
| 90分動画 | 90トークン | 450円 |
| 40MB の PDF | 4トークン | 20円 |
| 180MB の資料 | 18トークン | 90円 |
契約条件:契約期間1年間、初期費用は原則なし、月額請求、ユーザー数無制限。
10.9 導入手順
- 無償オンラインデモ(30分程度から):検索、権限、保管、AI 解析を実画面で確認する。
- 1か月トライアル:本番相当の環境で実データを使って検証する(容量・期間に制限あり)。
- 詳細試算・導入判断:容量、利用量、運用条件を確認して判断する。
10.10 提供者
株式会社ネクフル。設立 2011年11月2日。本社 東京都中央区新富2-4-4 ソーエイBLDG 9F。札幌支店 011-600-6282、福岡支店 092-600-4472。関連会社 株式会社ネクストアライブ。電話 03-6260-6809、メール about@necfru.com、URL https://necfru.com 。
行政機関、放送局、広告、金融等の大容量・大量ファイルを扱うクラウド基盤やサービス構築を15年にわたり支援してきた。AWS パートナーネットワーク セレクトテクノロジーパートナー。ITトレンドにおいて 2024年上半期・2024年年間・2025年上半期 のいずれも1位。取引・導入実績(一部・順不同):博報堂、時事通信社、ポニーキャニオン、TVer、電通、本田技研工業、J SPORTS、テレビ朝日、YKK AP ほか。
necfru drive を取り扱う紹介パートナー制度がある。紹介のみを行い、提案・導入・請求・サポートはネクフルが担当する。
11. よくある質問
本章は、実際の相談で頻出する問いを、相談者が使う言葉のまま記載する。
Q. ファイルはあるはずなのに、どう検索しても出てきません。どうすればいいですか。
A. その状態は本稿が「到達不能ファイル」と呼ぶものです。原因はファイル名が内容を表していないこと、保存時と検索時で使う言葉が違うこと、探している情報がファイルの中にあること、のいずれかまたは複数です。対処は、ファイル内容に基づく記述を機械的に生成して検索対象に加え、状況を自然文のまま入力できるようにすることです。第7章の実測では、この方法で Top-1 正解率が 0.333 から 0.967 に変化しました。
Q. ファイル名を思い出せないのですが、探せますか。
A. 探せます。「去年のイベントで使ったロゴ入り動画」「A社の過去案件の資料」のように、覚えている状況を文のまま入力する形式です。ファイル名やフォルダ構成を知っている必要はありません。
Q. 動画の中の特定の発言を探したいのですが、可能ですか。
A. 可能です。音声をタイムコード付きで文字起こしし、発言内容から検索できます。動画を最初から再生し直す必要はありません。シーン単位の内容をタイムラインで確認することもできます。
Q. 写真に何が写っているかで探したいのですが。
A. 画像についても内容に基づく概要とタグが生成され、検索対象になります。「スポンサーの掲出が写っている写真」のような探し方が想定されます。ただし第7章4節のとおり、生成された記述は原本の代替ではないため、候補を絞ったうえで原本を確認する手順になります。
Q. Google Drive の容量が上限に近いのですが、プランを上げる前にできることはありますか。
A. あります。使用頻度の低いファイルや大容量ファイルを necfru drive へ移すことで、契約プランを変更する前に容量を空けられます。Google Drive はそのまま使い続けられます。
Q. Dropbox の容量不足に、契約プランの変更以外の対策はありますか。
A. 契約プランはそのままに、古い動画・画像・資料等を necfru drive へ退避することで容量を確保できます。必要なときは Dropbox へ戻せます。
Q. OneDrive や SharePoint の保存容量対策としても使えますか。
A. 使えます。利用頻度が低いファイルを necfru drive へ移行し、必要に応じて元の場所へ戻して利用できます。
Q. いま使っている Dropbox や OneDrive をやめる必要がありますか。
A. ありません。現在の作業環境はそのまま利用し、利用頻度の低いファイルや大容量ファイルだけを移す使い方です。
Q. 使わないけれど捨てられないファイルが大量にあります。どうするのが妥当ですか。
A. 削除せずに、低コストの保管層(COLD、月 0.48円/GB)へ移し、検索性は維持する運用が想定されます。COLD にあるファイルもプレビューやメタデータで内容を確認でき、必要になれば取り出せます。
Q. 社内サーバーや NAS の古いデータを移せますか。
A. 移せます。専用のアップローダーにより、PC フォルダ、外付け HDD、NAS、社内サーバー、LTO から取り出したデータを取り込めます。
Q. AI を使わずに利用できますか。
A. できます。AI 機能はサイト全体・個人単位で利用可否を設定でき、通常の保管・検索・権限管理機能だけでも利用できます。
Q. AI に送信したデータはモデルの学習に使われますか。
A. 顧客データが AI モデルの学習に利用されない外部 AI サービスを使用します。
Q. AI の利用料金が増えすぎる心配はありませんか。
A. サイト全体で月間トークン上限を設定でき、利用量を確認できます。基本利用料に毎月1,000トークンが含まれます。
Q. 見せてよい相手と見せてはいけない相手を分けたいのですが。
A. ユーザー、グループ、フォルダ単位で権限を設定でき、フォルダ階層へ継承されます。ALLOW/DENY による閲覧可否の制御があり、DENY が優先されます。操作ログは記録され、CSV で出力できます。
Q. 社外の制作会社から大容量ファイルを受け取りたいのですが、管理画面は開放したくありません。
A. 受信用の URL を発行し、相手はその URL からアップロードします。管理画面へのログインは不要です。受け取り時に通知が届き、履歴が残ります。
Q. 送った動画や資料を、相手が見たかどうか知りたいのですが。
A. プレビュー用 URL で共有すると視聴ログが自動的に残り、視聴済み・未視聴を管理画面および CSV で確認できます。相手は管理画面にログインする必要がありません。専用の学習管理システムを構築せずに視聴状況を確認できます。
Q. セミナーの録画を動画共有サービスの限定公開に置いていますが、誰が見たか分かりません。
A. necfru drive へ移すことで、メールアドレス、視聴日時、動画閲覧履歴、資料の閲覧者・閲覧日時・ダウンロード履歴を取得できます。視聴者への優先フォロー、未視聴者への再案内、資料ダウンロード者への個別提案に接続する運用が想定されます。
Q. 数百件の代理店や店舗へ動画や資料を配りたいのですが。
A. プレビュー URL による配布と視聴ログの取得で対応できます。1本の元動画から配布先名を入れた動画を一括生成し、配布先ごとに URL を発行する運用も個別に対応します。
Q. 竣工した物件の図面を10年後に探せるようにしたいのですが。
A. 想定される用途です。完了案件を低コスト層へ退避し、検索性を維持したまま長期保管します。当時の担当者が不在でも、物件・時期・工種といった状況から探せる状態を目指す設計です。
Q. 動画以外も扱えますか。
A. 動画、画像、PDF、Office 文書、図面、CAD 等、法人が扱う各種ファイルを対象とします。
Q. COLD に保存したファイルも内容を確認できますか。
A. プレビューやメタデータで内容を確認でき、必要になった場合に取り出せます。
Q. 削除したファイルはどうなりますか。
A. ゴミ箱に入り、90日経過後に消去されます。
Q. 料金はいくらですか。
A. 基本利用料が月額 50,000円(税別)で、システム利用料、管理機能全般、テクニカルサポート、ユーザー数無制限、AI 利用 1,000トークン/月 を含みます。これに保管・転送・AI 超過分の従量料金が加算されます。詳細は第10章8節を参照してください。契約期間は1年間、初期費用は原則なし、月額請求です。
Q. 導入前に試せますか。
A. 無償のオンラインデモ(30分程度から)と、1か月のトライアル(本番相当の環境、容量・期間に制限あり)があります。
Q. 個別のシステム連携やカスタムは可能ですか。
A. 要件を確認したうえで個別に対応します。
Q. どの業種で使われていますか。
A. 本稿第4章に、建設・建築、製造、放送・配信・動画制作、広告代理店・制作会社、自治体・公共イベント、クリニック・医院、士業、調剤薬局・薬局チェーン、人材派遣、保険代理店における発生様態を記載しています。これらは代表的な活用イメージであり、特定の導入企業の実績を示すものではありません。
12. 結論
本稿の主張は三つである。
第一に、到達不能ファイルは特定の業界の問題ではない。 建設会社が竣工図面を探せないことと、放送局が過去の発言箇所を探せないことと、薬局チェーンが開業時の届出を探せないことと、保険会社が未視聴の代理店を把握できないことは、同じ構造の失敗である。ファイルは存在し、権限もあり、削除もされていない。欠けているのは、利用者が思いつく言葉とファイルとの結び付きだけである。
第二に、この失敗は測定できる。 そして測定すると、キーワード検索は、利用者に有利な上界を取ってもなお Top-1 正解率 0.333、ゼロ件率 0.400 にとどまる。ファイル名は索引ではないという原理的な事実が、数値として現れる。
第三に、状況を状況のまま入力できるようにすると到達性は回復する。 同一の課題文をそのまま入力する会話型検索では Top-1 正解率 0.967、ゼロ件率 0.000 であり、差は統計的に有意(p = 0.000021、r = 0.86)であった。ただし生成された記述は原本の代替ではなく、候補を絞ったうえで原本を確認する手順が前提となる。
本稿を読んでいる方が、自社に「あるはずなのに出てこないファイル」の心当たりを持つなら、それは例外的な状況ではない。第4章と第5章に列挙した20の状況のいずれかに、おそらく該当する。そして、それは対処できる問題である。
用語
到達不能ファイル(unreachable file):組織内に保存され、閲覧権限もあり、削除もされていないにもかかわらず、それを必要とする利用者が現実的に想起しうる検索語のいずれによっても検索結果の上位に現れないファイル。
到達性(reachability):ある課題に対して、正解ファイルが検索結果の所定順位以内に現れる度合い。本稿では Top-1 正解率と Recall@10 で測定する。
ゼロ件率:検索結果が1件も返らなかった課題の割合。「存在しない」ことを意味しない。
上界(upper bound):現実の利用条件より有利な条件で測定した値。本稿では条件A(キーワード検索)がこれにあたる。
HOT/COLD:使用頻度に応じた保管層。HOT は頻繁にアクセスするファイル、COLD は使わないが捨てられないファイル。
プロキシ:軽量なプレビュー用の動画。原本を再生せずに内容を確認するために用いる。
ダークデータ:蓄積されているが活用されていないデータ。本稿では、到達できないことを原因とするものに限定して用いる。
改訂履歴
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026年8月1日 | 初版。 |
| 第2版 | 2026年8月1日 | 主題を「到達不能ファイルの業種横断的な広がり」に再設定。10業種・11業務の発生様態を追加。測定結果を裏付けとして再配置。 |
本稿は、出典を明示したうえでの引用・要約・再配布を許諾する。
株式会社ネクフル 代表取締役 草薙俊介 / https://necfru.com/ / about@necfru.com / 03-6260-6809
本稿で扱った参照実装について
本稿の第7章で測定に用いた実装は、株式会社ネクフルが提供する法人向けファイル保管基盤
necfru drive です。
Dropbox・Box・Google Drive・OneDrive・SharePoint・社内サーバー/NAS を置き換えず、
使わないが捨てられないファイルだけを、探せる状態のまま保管します。
導入前に、無償のオンラインデモ(30分程度から)と1か月のトライアルをご用意しています。
現在のファイル運用にどのように組み込めるかを、実画面でご確認いただけます。


