地域の良さをどう伝えれば届くのか。移住につながるきっかけをつくるには、暮らしの雰囲気や人の顔が見える伝え方が必要です。この記事では、実際に動画で移住者を増やした地域の例をもとに、映像で人が動く理由と伝え方の工夫を紹介します。
なんでこの動画、こんなに印象に残るんだろう?
映像で人の心が動いた。そんな実例がいくつかあります。テクニックだけでは届かない“伝わる動画”には共通する工夫がありました。ここでは実際に話題を集めた2つの地域の映像をもとに、その理由をひもといていきます。
じんわりとした印象の群馬県高山村『何もないけど、何かある。』
キャッチコピーに頼らない“間”と静けさ
高山村の動画は、BGMも語りも控えめ。自然音と生活の音がゆっくりと流れるだけの構成です。ナレーションや大げさな演出を排除することで、逆に視聴者の想像力を引き出すつくりになっています。何も語らないからこそ、「何かある」と感じられる空気が残ります。
見せたいものより、そこにあるもの
観光スポットやイベントを前面に押し出すのではなく、日常の風景を淡々と映す内容が中心です。畑仕事、雪かき、薪割り。どれも特別なことではありませんが、「暮らす」という感覚が伝わる映像でした。
派手さのない編集が生んだ“信頼感”
あえてメリハリのない編集にしたことで、「ありのまま」という印象が強まりました。これは、移住を考える人にとっては安心材料になります。期待させすぎず、実感に近い映像で信頼をつくった事例です。
コピーが印象に残る宮崎県小林市の『ンダモシタン小林』
方言がまっすぐ届く設計
小林市のPR動画で特徴的なのは、字幕がなければ意味がわからない地元の方言でナレーションが行われている点です。ナレーターが話すのは正真正銘の地元言葉。言葉そのものは通じなくても、「その土地で話されている言葉」であるという事実が、独自性と親しみを生みました。
“ンダモシタン”という語感の力
「ンダモシタン」という言葉自体が気になってしまう——それだけで動画の再生が進むきっかけになります。意味はわからなくても、音として面白い。キャッチーなコピーにせず、あくまでその土地の言葉として提示したことが結果的に話題化につながりました。
都市部にいない視聴者を意識した設計
ナレーションは方言でも、字幕は標準語。言葉の距離を感じさせつつ、意味はちゃんと伝える。遠くにいる人にも伝わるよう、視聴環境を丁寧に考えた設計です。
要素 | 高山村 | 小林市 |
---|---|---|
印象的な特徴 | 静けさと生活音 | 方言によるナレーション |
映像の主軸 | 日常風景(無言・無演出) | コピーとナレーションの掛け合い |
感情の動き | ゆっくり染み入る共感 | 強く残る語感と文化的な魅力 |
映像の技術よりも、伝え方のバランスがカギ
「すごい」を狙わない映像が残る
どちらの映像も、技術的に突出したところはありません。それでも記憶に残るのは、誇張や演出よりも“そこにある生活”に焦点を当てたから。移住を考える人が見たいのは、暮らしそのものです。
映像が語りすぎない設計のよさ
共通するのは「言い切らない」こと。言葉で説明しきらず、視聴者が感じ取る余白を残す。そうした設計が、見る人にとって自然で心地よい体験になっています。
PRっぽさを抜いたときに伝わるものがある
伝えたい気持ちはあっても、あからさまな宣伝になってしまうと、かえって受け手は構えてしまいます。あえて“らしさ”を抜くことで、かえって伝わる。これが移住促進のPRに映像を使ううえでの大きなヒントになります。
移住って、もっと気軽でいいんじゃない?
移住と聞くと「人生の大きな決断」と感じてしまう人も多いかもしれません。でも実際は、もう少し身近で柔らかい動きだったりします。その“距離感”をうまく伝える方法として、動画という手段が選ばれる理由があります。
ハードルの高さは情報の届き方にもある
知らないことが多すぎると、動けない
移住をためらう理由の一つは「情報の少なさ」。求人、住まい、地域の雰囲気、人間関係など、知らないことが多いと不安になります。実際には住民が親切で暮らしやすい場所であっても、それが伝わらなければ意味がありません。
パンフレットでは埋まらない感覚の差
自治体が用意した資料や統計、魅力を並べたチラシには、住んだ後の“実感”がありません。読むだけでは「自分がそこに住んでいるイメージ」が湧きにくく、結局は他の選択肢に流れてしまうことも少なくありません。
情報の種類 | 課題 |
---|---|
数値情報 | 暮らしの肌感がわからない |
文章 | 地域の空気感が伝わらない |
写真 | 一方向の印象で終わる |
映像が言葉よりも伝えてくれること
話すより見せたほうが伝わることがある
「便利です」「自然が豊かです」と文字で書かれても、受け手の想像力に委ねるしかありません。でも動画なら、子どもが遊ぶ音、風に揺れる木々、店主とのやりとりなど、言葉にしづらい感覚がそのまま伝わります。
“考えるきっかけ”ではなく“感じるきっかけ”
動画には、説明ではなく“雰囲気”で伝える力があります。住むかどうかを即決させる必要はなくても、「なんだか良さそう」と思わせるだけで、次の行動につながります。まずは知ってもらう。その最初の一歩をつくるのに、映像は向いています。
見るだけで人が動くってどういうこと?
移住の動機になるのは、制度や金額だけではありません。「ここで暮らすのもいいかも」と思える感覚こそが、行動を後押しします。映像はその感覚に働きかける手段です。
映像には“空気ごと”届ける力がある
生活音が語るもの
子どもたちの笑い声、料理する音、風の音。こうした音が動画に入るだけで、暮らしのリアリティが一気に高まります。ナレーションよりも“聞こえてくる音”のほうが、心に残ることも多いです。
日常をそのまま流すことの価値
特別な演出ではなく、朝食を作る様子やスーパーへの買い物風景など、日常の一部を切り取った映像が「ここでの暮らし」を伝えてくれます。見る人が「自分だったら」と想像しやすくなるのです。
移住希望者の“決め手”になったリアルな動き
きっかけは動画、行動は現地
実際に移住者に話を聞くと、「最初は動画で知った」という声が少なくありません。その後、現地訪問を経て住む決断をする流れが多く、動画が接点になるケースは増えています。視覚的な安心感が背中を押す材料になっています。
動画→イベント→定住という流れもある
動画をきっかけにオンライン説明会や体験ツアーに参加し、そこから定住につながる例も増えています。動画が「知らない場所」から「気になる場所」に変えてくれる存在になっています。
地域と人との距離を縮める副産物
住民の声が届くことで安心感が増す
自治体が話すのではなく、実際に住んでいる人が登場して話すだけで、印象は大きく変わります。第三者の目線は信頼を生み、移住希望者にとっての安心材料になります。
双方向のつながりが生まれる入り口に
コメント欄やSNSでのやりとりを通じて、地域と視聴者がつながるケースもあります。動画がコミュニケーションの“種”になることで、移住希望者の不安が少しずつ解消されていきます。口コミや人との接点が、暮らしを想像する助けになります。
やってみて初めて気づく“難しいところ”
動画をつくれば伝わる、というわけではありません。実際にやってみると、伝えたいこととのズレや予算の壁など、いろいろな課題に直面します。効果的に発信するために、知っておきたい現実があります。
伝えるつもりが“違う方向”に進んでしまう
本来の目的を忘れた演出に注意
見栄えを良くしようとするあまり、本来伝えたい地域の暮らしからかけ離れた演出をしてしまうことがあります。ドローン映像や過度なBGMを使いすぎると、受け手に「観光向けの映像」と誤解されてしまうことも。
誰に向けているのかが曖昧になるとブレる
「多くの人に見てもらいたい」という気持ちはあっても、誰に伝えたいのかを絞らないと、メッセージがぼやけます。結果的に、誰にも刺さらない動画になってしまうことも少なくありません。
よくあるズレ | 起こりやすい原因 |
---|---|
観光PRっぽくなる | 美しい映像を優先しすぎる |
視聴者の心に届かない | ターゲット設定が曖昧 |
宣伝っぽく見える | メッセージが一方通行になっている |
お金と時間は、思ったよりかかる
動画制作には想像以上に工数が必要
企画、撮影、編集、公開までの流れには、かなりの時間がかかります。関係者との調整や撮影時期の確保など、事前の段取りも含めて想像以上に手間がかかる場面が多いです。
予算に対するリアルな感覚を持つことが大事
動画制作には数万円から数百万円まで幅があります。地域によっては、数十万円の予算でも厳しい場合もあります。限られた予算内で何ができるのかを、最初に整理しておく必要があります。
地域の“日常”が、一番のコンテンツになる
見せたいのは観光名所でも派手なイベントでもなく、そこにある日常。地域の暮らしそのものが、実は一番強いコンテンツになります。大げさな演出よりも、リアルな空気が届く映像の方が、心に残るものです。
普通の風景が、いちばん心に残ることもある
「なんでもない」が一番の魅力になる
地元の人にとっては見慣れた風景や暮らしのシーンこそが、外から見る人には新鮮に映ります。あえて特別な場所を選ばなくても、普段通りの朝や季節の行事が魅力的に感じられます。
映像は“紹介”ではなく“体感”に近づける
誰かの生活の一部をのぞき見るような感覚があると、視聴者は「ここで暮らす自分」を自然に想像しやすくなります。情報よりも空気感を届ける意識が大切です。
声や音が映すリアルな暮らし
ナレーションよりも地元の声を
プロのナレーションより、地元の方の声のほうがリアルに届きます。話し方にクセがあっても、その分だけ本物らしさがあります。丁寧に話す必要はなく、いつも通りの会話がいちばんです。
生活音がつくる臨場感
子どもの声、鳥のさえずり、食器の音。暮らしの音をそのまま映像に入れることで、リアリティが増します。音が入るだけで、静止画や文章では伝えられない雰囲気が一気に立ち上がります。
誰とつくるかも重要な選択になる
プロに依頼する場合の考え方
撮影や編集をプロに依頼すると、クオリティの高い映像が期待できます。ただし、地域の空気感や細かなニュアンスを伝えるには、発注者との連携が必要不可欠です。完全に任せきりではなく、コンセプトのすり合わせを丁寧に行うことが重要です。
地元でつくるなら時間をかけて丁寧に
地域の中で動画をつくる場合、時間と手間はかかりますが、地域目線での表現がしやすくなります。伝えたいことがブレにくくなるという点で、大きな強みがあります。機材や編集スキルに制約があっても、内容で十分に勝負できます。
限られた予算でも工夫でカバーできる
“いまあるもの”を活かす工夫
スマートフォンやタブレットでも十分な画質の映像は撮れます。三脚やマイクなど必要最低限の機材だけを用意して、あとは構成や撮影の工夫で見せ方をつくっていくのがポイントです。
無料・安価な編集ツールを味方につける
Canva、CapCut、iMovieなど無料で使える編集ツールでも、十分に魅力的な動画をつくることができます。テンプレートを使って画面に動きを出したり、色味を調整するだけで印象はぐっと変わります。
撮影時のコツを押さえれば質は上がる
・自然光を活かす
・撮影時に周囲の生活音を拾う
・人物を撮るときは表情が見えるアングルを意識する
これらを意識するだけでも、ぐっと映像の質が上がります。プロに頼まなくても、“伝わる動画”は十分につくれます。
伝えたい相手をちゃんと見つけよう
「誰に届けたいか」が明確になると、動画の内容や伝え方がグッと定まりやすくなります。発信の方向がぶれないようにするためにも、はじめに立ち返るべき視点です。
見せたい相手を思い描くところから始める
“届けばOK”じゃなく、“誰に届けば成功か”を考える
多くの人に見てほしい気持ちは大事ですが、動画は全員に刺さるものではありません。子育て世代に届けたいのか、自然に囲まれて暮らしたい単身者なのか、それによって構成も見せ方も変わってきます。
ペルソナを設定するシンプルなコツ
難しく考える必要はなく、「こういう人に住んでほしい」と感じる人を一人イメージしてみてください。その人が何に安心を感じ、何に惹かれるのか。それを想像すると、動画の言葉や映像のテンポも自然と決まってきます。
ターゲット層 | 映像に盛り込むと良い要素 |
---|---|
子育て世代 | 保育・教育・近所付き合いの様子 |
自然志向の単身者 | 山・川・畑などの風景と静けさ |
セカンドライフ | 趣味や交流の場、暮らしの落ち着き |
発信先と見せ方をちょっと工夫するだけで変わる
“どこに出すか”で届け方は変わる
YouTubeに出すのか、Instagramで断片的に見せるのか、それとも自治体の公式サイトに掲載するのか。プラットフォームによって見せ方を変えるだけでも、届き方はまったく違ってきます。
動画の尺と構成は発信先に合わせて調整を
・YouTubeなら3〜5分で構成がしっかりしたもの
・Instagramなら15秒〜1分で雰囲気重視
・自治体の公式サイトなら2〜3分で地域情報とバランス良く
それぞれに合った“見せ方”を考えることで、同じ素材でも伝わり方が大きく変わります。
届けたいのは「暮らしの温度」
動画で伝える価値は「すごい場所」ではなく「心地よい生活感」にあります。地域の魅力は、暮らしの中の細かい“温度”に宿ります。
がんばりすぎない自然体の動画が心に残る
どの動画にも共通してあった“素朴さ”
成功した移住PR動画に共通するのは、どれも無理に魅力を盛り込もうとしていなかった点です。過度な装飾がないからこそ、見る人が「自分にもできそう」「ここで暮らしてみたい」と感じられます。
日常の温度をそのまま伝える工夫
冬の朝に湯気が立つ台所や、静かな昼下がりの商店街。こうした何気ない一瞬が動画になると、言葉よりも強く地域の雰囲気を伝えてくれます。
映像が人と地域を“ゆるやかにつなぐ”
見る側と住む側の距離を縮める役割
動画は、地域と人との最初の“接点”になることが多いです。だからこそ、距離を近づけすぎず、でも親しみを感じてもらえる絶妙なバランスが求められます。
「おいでよ」より「ここに人が暮らしてるよ」
呼びかけすぎると宣伝っぽくなりますが、ただ日常を映すだけでも伝わるものはあります。「ここでこんな風に暮らしている人がいるんだな」と思えるだけで、興味を持つきっかけになります。
じんわりとしたつながりが長く効く
動画を見た後、すぐに移住を決める人は多くありません。でも、気になって何度も動画を見返したり、地域のSNSをフォローしたり、そうした“弱いつながり”が時間をかけて人を動かしていきます。強く押すより、自然に寄り添う動画が、最終的に心に残ります。
「住んでみたい」という気持ちは、映像からも生まれる
地域の魅力を伝えるのに、動画はとても素直で力のある手段です。言葉で伝えきれない空気や暮らしのテンポ、人の表情までも含めて届けられるからこそ、「ここに住んでみたい」と思わせる力があります。
派手な編集や有名人を起用した演出が必要なわけではありません。むしろ、何気ない日常や地域に根付いた言葉、リアルな人の声が映っていることのほうが、人の心に残りやすいのです。
移住を検討する人にとって大切なのは、その土地で“自分らしく暮らせるかどうか”。その感覚にそっと寄り添えるような動画づくりが、結果的に地域の新しい一歩につながっていきます。
地域の映像発信に取り組むときは、「誰に」「どう伝えるか」を丁寧に考えて、まずは等身大の暮らしから届けてみてください。そこからすべてが動き出します。