まちづくりの計画を住民にどう伝えるか。その「伝え方」に悩む自治体担当者にとって、3DVRは力強い味方になります。都市計画やインフラ整備の説明も、ひと目で伝われば話がスムーズに進みます。この記事では、3DVRを住民説明とシミュレーションの両立ツールとしてどう使うか、現場目線でわかりやすく解説していきます。
ひと目で伝わるって、やっぱり大きい
住民説明や都市整備の案内、紙の資料だけで「わかった」と言ってもらうのはなかなか難しいものです。3DVRを使えば、百聞は一見にしかず。イメージが共有できれば、話し合いもずっとスムーズになります。
3DVRってなに?どう使う?
3DVR(スリーディー・ブイアール)は、立体的な仮想空間を通して、建物や景観、空間の構成などをリアルに体験できる技術です。ヘッドマウントディスプレイを使った本格的なVRもありますが、自治体での活用では、スマートフォンやPCで見られるWebVR形式のほうが導入しやすく、実際によく使われています。
たとえば、再開発エリアの完成イメージや、防災施設の配置計画などを、360度の視界で「そこにいるかのように」見せることで、住民にわかりやすく伝えることができます。
体験を通じて“理解”を引き出す
紙の資料やパワーポイントでは伝わらなかった空間の奥行き、通路の幅、見通しの良さといった情報も、VR上なら視覚的に把握できます。説明会で「どんな施設になるの?」という疑問を持つ方に、実際の空間を歩いて見ているような感覚で説明できるのが最大の強みです。
図面や完成予想図では限界がある
都市整備の説明資料といえば、図面やイメージパースが一般的です。でも、建築や設計の知識がない人にとって、それを見ただけで全体像を把握するのは容易ではありません。
例えば、立面図を見せられても「この壁の高さって、実際にどれくらい?」といった感覚はつかみにくいですし、配置図を見ながら「この通路は車椅子でも通れる?」と考えるのは、なかなか大変です。
直感的にわかる形にする
VR上であれば、視点を自由に動かしながら実際の動線を確認できます。階段の高さ、エレベーターの位置、トイレの場所なども視覚的に確認できるため、特に高齢者や子育て世代、障がいのある方などにとって大きな安心につながります。
わからなさを減らすのが、説明の第一歩
「伝わったかどうか」を確かめるのが難しいのが、住民説明の厄介なところです。相手がうなずいてくれていても、それが本当に理解につながっているかはわかりません。でも、3DVRで視覚的に確認できれば、「なるほど、こうなるのね」と実感を持って納得してもらえることが増えてきます。
図面や文章だけじゃ、なかなか伝わらない
口頭説明や資料配布だけでは、「伝えたつもり」で終わってしまうこともあります。反対意見が出てから「もっと丁寧に説明しておけばよかった」と後悔しないためにも、伝え方を見直す必要があります。
「わかりづらい」が招くすれ違い
住民説明会などで起こりがちなのが、「そんな話、聞いていない」「イメージと違った」という反発です。これらの多くは、情報を出さなかったことではなく、「出したけれど伝わらなかった」ことが原因です。
意見のすれ違いが生む“感情の壁”
内容が正しくても、伝え方次第で不信感につながることもあります。「図面を見てもよくわからない」「説明が専門用語ばかり」という声が出ると、説明そのものへの信頼が失われやすくなります。
住民の属性に合わせた見せ方が必要になる
説明会に参加する住民は一様ではありません。子育て中の方もいれば、高齢者、外国人住民、障がいのある方など、バックグラウンドも理解度もさまざまです。
すべての人に“伝わる”かたちにする
3DVRは、文字や言葉に頼らずに空間の情報を共有できるため、多様な住民に対して有効です。言語に不安がある方でも、視覚的な情報なら理解しやすく、「参加できる説明会」の実現につながります。
発信側の“当たり前”を疑う
行政の資料や説明は、どうしても形式的・専門的になりがちです。「こうすればわかってもらえるはず」と思っていても、実際には読み手にとっては難解だったり、想像しづらい表現になっていたりします。
誰が読んでも理解できる情報提供とは?
わかりやすい説明とは、「専門的なことをかみ砕いて伝える力」です。3DVRはその手助けになるツールであり、伝え方の工夫と組み合わせることで、住民との認識のズレを最小限に抑えることができます。
“見える”ことで、話が前に進みやすくなる
住民説明で「納得してもらえない」「理解されにくい」と感じたことがあるなら、それは情報の伝え方に課題があるのかもしれません。3DVRは、言葉よりもイメージを共有することで、話し合いのスタート地点をそろえる役割を果たします。
イメージが共有できると、会話が変わる
言葉で説明しても、伝わるイメージは人それぞれ。そこに「見える」情報があると、認識のズレが起きにくくなります。
具体的な空間の話ができるようになる
例えば、ある再開発計画で3DVRを導入したケースでは、「建物の圧迫感がない」「この広場は子どもが遊びやすそう」といった具体的な意見が住民から出ました。これは、図面だけでは難しかった“空間の体感”が、共通の視点として共有できたからこそです。
抽象的な説明から脱却できる
「ここに施設ができます」ではなく、「ここにこう見える建物が建ちます」と伝えられると、住民もより現実味をもって受け止められます。想像ではなく、目で見た感覚に近い説明ができるのは大きな強みです。
説明会の反応が変わる瞬間
会議室で何枚もスライドをめくって説明していたのが、360度の映像を一緒に見ながら話すスタイルに変わると、空気がぐっとやわらかくなります。
参加者が“前のめり”になる
「じゃあこの道、通学路として安全なのかな?」「こっちの導線の方がスムーズでは?」など、住民からの質問や意見も具体的なものが増えていきます。これがまさに、3DVRが“共通の体験”をつくってくれている証です。
会議の効率アップにもつながる
説明が理解されやすくなると、質問の数も減り、時間のロスが少なくなります。誤解が生じるリスクも低減されるため、説明会後のトラブル対応にも余計な手間がかからなくなります。
担当者の負担が軽くなる
住民説明は、資料準備、質疑応答、説明後のフォローと、意外と多くの労力を必要とします。3DVRの導入によって、これらの作業をコンパクトにまとめることも可能になります。
一度作ったVRを複数回活用できる
現地説明会、庁舎ロビーでの展示、Webサイトでの公開など、作成した3DVRはさまざまな場所で再利用できます。紙の資料と違って配布や印刷も不要なので、長期的には効率のいい施策になります。
便利だけど、気をつけたいところもある
どんなに便利な技術でも、使い方を間違えれば期待した効果は得られません。3DVRを導入する際にも、運用面や対象者への配慮が求められます。
誰でもすぐ使えるわけではない
スマートフォンやPCで手軽に見られるとはいえ、高齢者や機器操作に不慣れな人にとっては、使い方そのものがハードルになることもあります。
案内方法を工夫する
自治体の現場では、タブレットを職員が持ち、操作しながら説明するスタイルがよく使われています。また、説明会会場でスタッフが付き添って案内するなど、ちょっとしたサポートがあるだけで体験の質は大きく変わります。
誰でもアクセスできる仕組みに
WebVRの形で公開する場合は、PCでもスマホでも見やすい設計を意識することが重要です。操作案内をシンプルにする、音声ガイドや字幕を入れるなど、小さな工夫が大切です。
導入や運用にコストはかかる
3DVR制作には、それなりのコストが発生します。特に建築やインフラに関わる精度の高いモデルを作る場合、3Dモデリングの外注費や機材の準備が必要になることもあります。
目的を明確にすれば無駄にならない
最初から大規模に導入する必要はありません。たとえば「新しい庁舎の案内だけに使う」など、利用目的を限定することで、費用対効果の高い活用が可能になります。必要な情報だけをピンポイントで伝える形でも、十分な効果があります。
更新と保守も見据えておく
一度作ったVRコンテンツは、計画の変更や施設の完成後にも使えるかどうかを見極める必要があります。更新のしやすさ、運用にかかる人的リソースなども事前に検討しておくと安心です。
「作っただけ」で終わらせない
せっかく作ったのに活用されない、というのは最ももったいないケースです。
職員が使いこなせるようにしておく
担当者任せにせず、庁内全体でVRをどう使うかを共有することで、部署をまたいだ活用が広がります。特に、広報・防災・教育など複数の部門が関わるケースでは、共通のツールとして使えるように調整しておくと活用の幅が広がります。
住民が“使える”仕組みにする
住民向けに公開したあと、どうアクセスされるのか、どこにリンクを置くのかも重要です。Webページの目立つ場所に配置する、動画で紹介する、案内チラシを配布するなど、周知の工夫も忘れずに行いましょう。
はじめの一歩は、無理なく小さく始めること
3DVRを取り入れようと思っても、いきなり大規模な導入はハードルが高く感じるものです。無理なく、効果を実感しながら進めるには、まず“手の届く範囲”からスタートするのがポイントです。
まずは小さく試してみる
すべてを一気にデジタル化しようとせず、まずは1施設や1施策に限定して導入するのが現実的です。最初の一歩で成功体験を得られれば、その後の横展開もしやすくなります。
小規模導入のメリット
項目 | 内容 |
---|---|
コスト | 限定的な範囲なので費用を抑えられる |
調整 | 担当部署だけで進めやすい |
評価 | 住民の反応を見ながら改善できる |
たとえば、「新しくオープンする図書館のVR内覧」「駅前の再整備区域だけの3D化」など、対象を絞った形で始めることで、無理なく導入しやすくなります。
外注に頼りすぎない体制づくり
VR制作は専門性の高い分野ですが、最近は自治体でも使える簡易ツールやテンプレートも増えてきています。すべてを外注に依存せず、内製できる部分は職員主導で進めることも可能です。
内製化のヒント
- オープンソースのVR作成ツールを活用する
- 職員がスマホで撮影した写真をベースにした簡易VRを試す
- ITスキルを持つ若手職員とチームを組んで作業を進める
こうした取り組みは、外注コストを抑えるだけでなく、自治体内のデジタル対応力向上にもつながります。
始めるなら“ここ”がやりやすい
どこから始めるのがよいかは、自治体の状況によって異なりますが、以下のようなテーマは比較的取り組みやすく、住民にも伝わりやすい傾向があります。
手応えが出やすい対象例
- 庁舎や図書館などの公共施設案内
→「どこに何があるか」がわかると安心感につながる - 新規整備エリアのイメージ共有
→「どんなふうに変わるのか」が伝えやすい - 避難所や防災拠点の案内
→「いざというときの備え」に直結する内容
これらは説明会でも活用しやすく、住民からの反応も得やすいため、スタートにはぴったりの選択肢です。
使い方ひとつで、伝わり方は大きく変わる
せっかく3DVRを導入しても、「なんか分かりにくかった」「思ったより印象に残らなかった」と感じさせてしまうこともあります。効果を最大限に引き出すには、伝える“中身”の作り方と見せ方にこだわることが大切です。
内容の構成が伝わりやすさを決める
VRコンテンツを作るとき、「きれいな映像」よりも大切なのが“どんな順番で、どこを見せるか”という構成です。
ストーリー仕立てにするだけで違う
単に施設を360度で見せるのではなく、「入り口 → 受付 → 各部屋 → トイレ → 出口」など、実際の動線に沿って見せるようにすると、視聴者は自分がその場所を訪れているような気持ちで体験できます。
テキストや音声も効果的に
要所に短い説明テキストを加えたり、ナレーションを入れたりすることで、「何を見ればいいのか」が明確になります。見る人が迷わず体験できるよう、ガイド役を設ける感覚がポイントです。
映像と説明をセットにする
住民説明会などの場面では、VRだけを流すのではなく、職員の解説と合わせて見せることで、伝わり方が格段に良くなります。
「見ながら話す」がベスト
説明者がVR画面を操作しながら案内することで、参加者の理解が深まります。「この先に見えるのが多目的トイレです」など、リアルタイムに案内するスタイルが効果的です。
Q&Aの時間を活かす
住民の質問にその場でVRを使って視覚的に答えると、納得感も高まります。「この通路、幅はどれくらい?」という質問に、実際の映像でその広さを見せることで、安心感につながります。
見せ方は目的に合わせて変える
3DVRの効果は、「どう見せるか」によって大きく変わります。場面や目的に応じて、最適な見せ方を工夫することが大切です。
比較したいときは2パターン見せる
再開発前と後を比較するなど、2つのVRを見せることで違いが明確になります。特に都市計画では、「現状と完成形のギャップ」をリアルに伝える手段として非常に有効です。
コンパクトな映像も効果的
長時間のVR体験は疲れやすく、集中力も続きにくいもの。1〜2分程度のショートVRを複数用意して、「今回は防災」「次回は施設案内」など、テーマ別に見せるスタイルも好まれます。
しっかり作り込んだものほど、長く、幅広く使える。伝えるためのツールとして、見せ方にもひと工夫あると、効果がまったく違ってきます。
タイプ別の使い方モデルケース
3DVRは、都市計画や施設整備だけにとどまらず、さまざまな分野で活用の可能性があります。ここでは、実際に導入が検討できる場面を想定して、提案型の活用モデルをご紹介します。
津波避難の行動を体験できる海沿いのまちのモデル
災害時の判断を“見て覚える”防災教育として
海に面した中規模の自治体では、津波避難をテーマに3DVRを活用することができます。高台へのルートや避難所までの距離を体感的に把握できるような構成にすれば、地域住民の避難行動をより現実的にサポートできるはずです。
住民ごとの避難ルートを仮想体験で確認
住宅密集地や商業エリアを中心に、自宅からの避難経路を3D空間でシミュレーションすることで、「どこが危ないか」「どこに逃げるのが安全か」を事前に把握できるようになります。特に高齢者や小さな子どもがいる家庭には効果的です。
学校や地域イベントでの活用も視野に
このモデルは、防災教育の教材としても活用できます。学校の授業でタブレットや大型モニターを使い、子どもたちが自分の避難ルートを仮想体験することで、防災意識の定着が期待できます。
福祉施設を安心して使ってもらうための小規模自治体のモデル
「行ってみないとわからない」不安をなくすために
山間部のような地域で高齢化が進む自治体では、福祉施設のバリアフリー案内や利便性の“見える化”に3DVRが役立ちます。とくに新設された施設は「中がどうなっているのか分からない」と利用をためらう人も多く、導入メリットは大きいと考えられます。
動線の確認で利用ハードルを下げる
入り口から相談室、エレベーター、トイレ、休憩スペースまでのルートを一連で案内することで、利用者は訪問前に具体的なイメージを持つことができます。車椅子の通りやすさや段差の有無など、細かい不安にも対応できます。
スマホでも見られる形で公開
地域住民にとっての利便性を高めるには、VRコンテンツを庁舎や広報紙だけでなく、スマートフォンでもアクセスできるWeb形式で提供するとより効果的です。家族が代わりにチェックして、安心して付き添えるような使い方も可能です。
郷土の魅力を伝える教育ツールとしての文化都市モデル
地域の歴史や文化を、体験で伝える学びのスタイル
城跡や町並み保存地区など、歴史資源を多く持つ自治体では、郷土学習の教材として3DVRを導入する方法があります。従来の紙教材やビデオでは伝えきれなかった“その場にいる感覚”が、学習意欲の向上につながります。
まち歩きのように学べるコンテンツ構成
仮想空間の中で、城跡をめぐったり、昔ながらの町家の内部を見たりできる構成にすると、教室にいながら地域を“歩いて知る”という新しい学び方が可能になります。ガイド音声やクイズ機能などを加えれば、楽しみながら理解を深める教材にもなります。
公開の場を広げれば地域の魅力発信にも
教育用途にとどまらず、図書館や地域イベントで一般向けに体験できる場を設ければ、住民自身が地元の魅力を再発見する機会にもなります。観光に頼らない“まちの学び”の仕組みとして、長期的な資産にもなりえます。
再開発を進める駅前エリアを説明する地方都市のモデル
完成後のイメージを共有して、合意形成を進めやすくする
駅周辺の再開発に取り組む地方都市では、「何が変わるのかがわかりづらい」という住民の声に対して、3DVRを使った説明を取り入れると効果的です。平面図だけでは伝わらない雰囲気やスケール感を共有できることで、計画への理解が深まります。
“今”と“未来”を並べて比較できる
現状の景観と、整備後の完成イメージを切り替えながら見ることができるような設計にすれば、再開発の意義やメリットが伝えやすくなります。「本当に便利になるの?」「建物の高さが心配」といった声にも、視覚的に応えやすくなります。
オンラインでも説明会でも使える柔軟さ
VRコンテンツは説明会だけでなく、Webに掲載して事前視聴できるようにすることで、参加者の理解度を上げることができます。また、住民からの意見収集にもつなげやすくなり、丁寧な対話のきっかけになります。
このように、3DVRはまちの規模や性質に応じて、多彩な使い方ができます。いきなり大がかりに導入する必要はありません。「今の課題を、どう“見える化”できるか」という視点で考えれば、小さな一歩からでも効果は見えてきます。
“伝わるかたち”をつくることが、まちを動かす力になる
情報があふれる時代だからこそ、「どう伝えるか」が自治体の力になります。3DVRは、住民との認識のズレを減らし、納得と安心を生むコミュニケーションの手段。図面や文章では届かなかった部分を、直感で届けられるからこそ、合意形成のスピードも変わってきます。使い方しだいで、もっと伝わる、もっと進めやすいまちづくりへ。今こそ、可視化の力を取り入れる時です。