地域に人を呼び込みたいと考えるとき、「観光だけ」では滞在を長くしてもらうのは難しいものです。そこで注目したいのが、仕事と観光を組み合わせるワーケーション。滞在が長くなれば地域に落ちるお金も増え、関係人口づくりにもつながります。観光施策と結びつけるために、地域が仕掛けられる工夫をわかりやすく整理しました。
観光地に広がる“働ける場所”への期待
観光を楽しむだけでなく、滞在中に仕事も続られるということがワーケーションの魅力です。リモートワークの広がりを背景に、観光地にも新しいニーズを受け止める準備が求められるようになりました。
リモートワークがつくる新しい利用シーン
働く場所の自由度が広がったことで、観光地を訪れる人の目的も変わってきました。これまで「遊ぶ場所」だった空間が、「働く場所」としても期待されるようになっています。
オフィス代わりになる条件
- 安定した通信環境
- 長時間利用できる机や椅子
- 打ち合わせに使える静かな部屋
こうした条件が揃うと「観光地でも仕事ができる」という安心感が生まれます。
企業利用の可能性
チーム単位で滞在して合宿型の仕事を行う例も増えています。集中した環境を作りやすく、日常とは違う発想が出やすいことが理由です。
観光だけではない滞在型ニーズ
短期の観光だけではなく、「数日間滞在して仕事をしながら地域に触れたい」という声が広がっています。観光地にとっては、従来よりも長い日数での利用につながりやすい傾向があります。
滞在型の利点
- 宿泊日数が増える
- 食事や買い物など地域消費が広がる
- リピーターになりやすい
地域との関わりが深まる場面
ワークの合間に地元の食材を味わったり、地域イベントに参加したりすることで「関係人口」としての接点も生まれます。
なぜ“観光地ワーケーション”が広がらなかったのか
期待値が高かった一方で、観光地ワーケーションは思ったほど根付いていません。理由を整理すると、受け入れ体制と制度の課題、そして観光とのつながり不足に行き着きます。
インフラや環境の弱さ
多くの観光地ではWi-Fiの安定性や作業空間の整備が十分ではありませんでした。仕事をする人にとって「不安定な通信」や「集中できない空間」は致命的です。
具体的に不足していたもの
| 項目 | よくある課題 |
|---|---|
| 通信 | Wi-Fi速度が遅い、切断が多い |
| 設備 | コンセント不足、椅子や机が簡易的 |
| 空間 | 周囲が騒がしく会議に向かない |
これらが揃っていないと「観光地=仕事できない場所」というイメージを持たれてしまいます。
企業制度の壁と導入の難しさ
個人でワーケーションを楽しむことはできても、企業として認める仕組みが整っていないことが大きな壁となりました。
よくある課題
- 勤怠管理がしにくい
- 成果の見えづらさに不安がある
- 福利厚生としての位置づけが曖昧
このため、企業単位での利用はまだ限定的です。
観光とのつながり不足
「観光地で働く」という体験が、実際には観光に結びついていないことも課題でした。
よくあったパターン
- 宿泊先にこもって仕事だけして帰る
- 観光プログラムがセットになっていない
- 地域住民との接点が少ない
結果的に、観光消費や地域交流が生まれず、ワーケーションの目的である「観光施策とつなげる効果」が弱くなっていました。
“仕事と観光”をかけ合わせると可能性が広がる
ワーケーションはただの滞在ではなく、仕事と観光が重なり合うことで地域に新しい価値を生みます。滞在時間の長さや消費の広がり、交流による関係人口の拡大など、観光地にとって大きなプラス効果があります。
滞在が長くなると地域経済が潤う
ワーケーション利用者は、一般的な観光客よりも滞在期間が長くなる傾向があります。数日間の短期滞在ではなく、1週間から2週間以上滞在するケースも多く、その分地域に落ちるお金が大きくなります。
宿泊・食事・体験への広がり
- 宿泊日数が増えることでホテルや旅館の稼働率が安定する
- 平日も含めて地域の飲食店を利用するため、繁忙期以外の売上補填につながる
- 空き時間に体験型プログラムを組み込むことで、新しい収益源を作れる
数字で見る滞在効果
観光庁の調査によると、ワーケーション利用者の平均滞在日数は通常の観光客の約2倍。1人あたりの消費額も20〜30%程度高くなる傾向があると報告されています。
地域の人と交流することで関係人口が育つ
長く滞在することで、利用者は地域の暮らしや人々に触れる機会が増えます。単なる観光客ではなく、地域と関わる“関係人口”としての存在に近づいていきます。
交流が生まれる場面
- 地元のイベントやワークショップへの参加
- カフェやコワーキングスペースでの住民との交流
- 地域特有の産業に触れる体験
こうした接点をきっかけに「また来たい」「人を連れて来たい」という思いが生まれ、継続的な関係づくりに発展します。
働ける観光地という新しいブランド
観光地が「仕事ができる場所」として認知されると、新しいブランド価値が育ちます。従来の観光イメージに“働ける”という安心感が加わることで、利用者層の幅が広がります。
ブランド強化のポイント
- 公式サイトやパンフレットに“仕事対応”を明示する
- 写真や動画で利用イメージを伝える
- SNSで実際の利用シーンを発信する
これにより、観光地が「滞在のしやすさ」で選ばれる理由を持つことができます。
受け入れ側のデメリットとは
ワーケーションはプラス効果が大きい一方で、受け入れる側には不安や悩みもあります。収益性や利用者とのすみ分け、続けられる仕組みづくりなど、具体的に見ていきましょう。
ビジネスとして成り立たせる難しさ
観光利用に比べて、仕事目的の滞在はレジャー消費が少ない場合があります。そのため「どのように収益モデルを描くか」が課題となります。
よくある悩み
| 項目 | 悩みの例 |
|---|---|
| 宿泊 | 通常の観光客に比べ単価が低くなりがち |
| 飲食 | 長期滞在者は節約志向になりやすい |
| 施設 | ワーク環境整備に初期投資が必要 |
このため、観光施策と組み合わせたパッケージ化や補助金活用が収益化の鍵となります。
観光客とのすみ分けの難しさ
観光で訪れる人と仕事をする人では、求める環境が異なります。両方を同じ空間で受け入れるとトラブルのもとになりかねません。
よくある摩擦
- 観光客が談笑する中でオンライン会議をしたい人が集中できない
- レジャー利用でにぎやかさを求める人と静かな環境を求める人が衝突する
ゾーニングや利用時間の工夫など、空間設計が欠かせません。
続けられる仕組みが必要
一時的なキャンペーンや補助金頼りでは、長く続けることができません。安定的に人を呼び込むためには、仕組みを整えて継続できる運営が重要です。
続けるための視点
- 季節ごとに異なる体験メニューを用意する
- 利用者の声を反映して改善を重ねる
- 地域全体で連携し、負担を分散する
こうした取り組みが積み重なることで、「また来たい」と思わせる地域づくりにつながります。
施設やサービスにも工夫が必要
ワーケーションを呼び込むためには、単に宿泊場所を提供するだけでは足りません。仕事がしやすい環境を整え、観光体験と結びつける仕掛けを作ることで、利用者の満足度を高められます。
働きやすさを前提にした環境づくり
利用者にとって「仕事ができる」という安心感が最優先です。通信や設備が整っていないと選ばれにくいため、まずは基盤をしっかり整える必要があります。
必須となるインフラ
| 項目 | 求められる条件 |
|---|---|
| 通信 | 高速かつ安定したWi-Fi |
| 電源 | 机ごとにコンセントを配置 |
| 家具 | 長時間座っても疲れにくい椅子と机 |
| 空間 | 打ち合わせや会議ができる静かな部屋 |
小さな工夫で差がつく要素
- 遮音パネルで静けさを確保する
- モニターや延長コードを貸し出す
- コーヒーや軽食を提供する
こうした配慮が利用者の滞在意欲を高めます。
観光体験とのセットで価値を高める
仕事だけで終わらせず、地域ならではの体験を組み込むことで、滞在の満足度が一気に上がります。
組み合わせやすいプログラム例
- 地元食材を使った料理体験
- 歴史や文化を学べるワークショップ
- 自然を活かしたアクティビティ
体験を活用するメリット
- 滞在日数が伸びやすい
- 地域にお金が循環する
- 「ここならでは」の思い出が残りリピーターになりやすい
観光施策とワーケーションを結びつける要は、この“セット化”です。
企業向けに提案できる仕組み
個人利用だけでなく、企業単位での利用を想定すると可能性が広がります。合宿や研修、チームビルディングといった目的で活用できるようにすると、安定した誘致につながります。
企業向けプランの形
- 数日単位の研修パック(宿泊+会議室+食事)
- チームビルディング体験を含めたプログラム
- 交通と宿泊をまとめた一括予約
長期的に誘致を続けるには、こうしたパッケージ化が不可欠です。
選ばれる地域になるためには
「行ってみたい」と思わせるためには、施設の工夫だけでなく地域全体の発信や連携が大切です。利用者の立場に立ったわかりやすさと安心感がポイントになります。
わかりやすいアクセスと立地情報
せっかく良い施設があっても、行き方が複雑だと選ばれません。アクセスの説明は簡潔に、移動時間や交通手段を具体的に伝えることが重要です。
発信の工夫
- 最寄り駅からのルートを写真付きで案内する
- 所要時間を複数の都市から明示する
- 送迎サービスがあればわかりやすく紹介する
利用者目線の情報発信
利用者が気になるのは「ここで仕事できるのか」という具体的なイメージです。写真や実際の利用例を使って伝えることで、不安を取り除けます。
効果的な発信方法
- 作業中の風景を写真や動画で見せる
- 利用者の声を掲載する
- 滞在中の過ごし方モデルを紹介する
地域全体でつくる一体感
宿泊施設だけが頑張っても限界があります。飲食店や観光体験、交通機関が連携してこそ、利用者は快適に過ごせます。
連携による強み
- 宿泊+移動+体験がワンストップで利用できる
- 地域内で経済が循環する
- 利用者に「また来たい」と思わせる仕組みが生まれる
地域ぐるみでの運営は、持続的なワーケーション誘致につながる大きな力になります。
観光施策と結びつけた取り組み
観光とワーケーションを組み合わせる動きは、全国各地で少しずつ形になっています。宿泊施設や地域資源を活かした工夫、行政の支援を組み合わせることで、地域全体に波及する効果を生んでいます。
観光業界が仕掛けた受け入れの工夫
観光業界では宿泊施設が率先してワーケーション向けの環境を整える取り組みが進んでいます。単なる宿泊場所ではなく「働ける場所」としての価値を高めることで、新しい利用層を取り込んでいます。
具体的な取り組み内容
- コワーキングスペースの設置
- 会議や打ち合わせに使える専用ルームの用意
- 長期滞在割引や平日利用プランの展開
効果として見られたこと
- 稼働率の安定化
- 平日の新規顧客獲得
- 宿泊利用者の滞在日数増加
地域資源を活かしたアプローチ
地域ならではの資源を生かしたプラン作りも効果的です。自然、文化、食といった資源を“働く時間の合間”に組み込むことで、地域独自の魅力が形になります。
例として見られる工夫
- 農業や漁業体験を短時間で組み込む
- 地域文化に触れるワークショップの提供
- 地元食材を活用した料理教室
メリット
- 「ここでしかできない」体験が生まれる
- 地域産業と観光がつながる
- 長期滞在の動機づけになる
行政と連携して広がったケース
行政が支援することで、地域全体を巻き込んだワーケーション施策が実現します。補助金や制度設計があると、受け入れ側の負担を軽減し、継続的に取り組む土台を作れます。
行政施策の主な支援内容
| 支援の種類 | 内容 |
|---|---|
| 補助金 | Wi-Fi整備や施設改修への助成 |
| プロモーション | 広域での発信やキャンペーン |
| 調整 | 宿泊・体験・交通の連携サポート |
結果として見られたこと
- 地域全体での利用者受け入れが可能になった
- 観光だけでは呼べなかった層を獲得できた
- 他地域との差別化につながった
“観光+働く”が描くこれからの地域像
ワーケーションは一過性の流行ではなく、観光戦略の中に組み込むことで持続的なモデルになっていきます。観光地が「働ける場所」として定着するには、長期的な視点と地域全体の協力が欠かせません。
続けていくための視点
長期的に利用されるためには、単発イベントではなく仕組みとして根付かせる必要があります。
必要な工夫
- 季節ごとに異なるプログラムを用意する
- 利用者の声を反映し改善を続ける
- 地域全体で役割を分担し、負担を偏らせない
観光戦略に加わる新しい選択肢
観光を“遊び”だけに限定せず、“働く”要素を組み込むことで、利用者層の幅が広がります。従来の観光施策では取り込めなかった層を呼び込むことができ、地域全体に新しい流れを生み出します。
広がる可能性
- 平日の稼働率を高められる
- ビジネス目的の長期滞在が生まれる
- 地域ブランドの多様化につながる
地域活性化につながる期待
観光と働くを両立させることで、滞在が長くなり、交流が深まります。その結果、関係人口の拡大や地域経済の安定化へとつながります。
将来像
- 観光産業と地域産業が相互に支え合う関係
- リピーターや二拠点生活者が増える
- 「働ける観光地」として新しい価値を持つ地域
持続可能な仕組みとして根付けば、観光施策とワーケーションが一体となり、地域の未来を支える力になります。



