スキルアップはもう他人ごとじゃありません。DXが進む今、企業も社員も一緒に変わっていく時代です。この記事では、リスキリングを通じてスキルアップを実現し、企業と社員が“Win-Win”で成長していく方法をわかりやすく解説します。
スキルアップが未来をひらく──今こそ「人づくり」の時代へ
変化の激しい時代だからこそ、人材の力が企業の成長を左右します。スキルアップは個人のためだけでなく、会社の未来にとっても欠かせないものになっています。
社員の成長が企業の未来をつくる
「人が育てば、組織は自然と強くなる」──そんな言葉が、今ほど実感を持って語られる時代はないかもしれません。かつては経験や勘で回っていた業務も、今ではデジタル技術を使いこなす力が求められています。
中小企業においては、外部から即戦力を採用するよりも、今いる社員にスキルアップの機会を提供する方が、コストも低く、定着率も高くなるというデータもあります。社員が成長すれば、業務の改善や新しいサービスへの対応もスムーズになり、結果的に企業全体の競争力向上にもつながります。
たとえば、業務フローの改善提案を現場のスタッフが自らできるようになることで、外注コンサルに頼らなくても社内でPDCAを回せるようになるケースも増えています。スキルアップは「研修を受けること」ではなく、仕事の質やスピードを変える実践的な力になるのです。
時代の変化に“対応できる人”が企業を支える
スキルそのものの価値よりも、「変化に対応できる人材」であるかどうかが問われるようになっています。現場では、日々新しいツールや手法が登場し、それに合わせて業務プロセスも変わります。
特定のスキルを一つ覚えれば一生安心、という時代は終わりました。今必要なのは、“学び続ける力”を持った人材です。
この点でリスキリングが注目されています。業種や職種にかかわらず、何度でも自分をアップデートできる人こそが、これからの組織にとって大きな財産になります。
なぜリスキリングが必要なのか?──DX時代の波に乗れ
世の中の仕組みが大きく変わる今、企業も社員も「これまで通り」では立ち行かなくなっています。DXの波にどう乗るかが、今後の明暗を分けるポイントです。
ビジネスの当たり前がガラッと変わっている
デジタル化のスピードは、かつてないほどの速さで進んでいます。業種を問わず、“ITを使いこなす”ことが前提になる時代です。
たとえば、営業や会議だけでなく、社内申請・受発注・勤怠管理など、日常業務の多くがクラウドツールに置き換わっています。中小企業も例外ではなく、補助金や自治体の支援を活用して業務をDX化する動きが広がっています。
こうした中、政府は企業や個人のリスキリングを後押しするために、2022年に「デジタルスキル標準(DSS)」を策定しました。
これは以下の2つで構成されています。
区分 | 概要 |
---|---|
DXリテラシー標準 | 全ビジネスパーソン向けの共通スキル。データやIT技術の基礎、DXへの向き合い方、情報セキュリティなど。 |
DX推進スキル標準 | DXを担う専門人材(ビジネスアーキテクト、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニアなど)に必要な実践的スキル。 |
このうち「DXリテラシー標準」は、職種や業種に関係なく、全ての社員が身につけるべき知識とスキルとして位置づけられています。たとえば、以下のような内容が定義されています:
- DXの基本的な考え方(なぜ今DXが必要なのか)
- データやデジタル技術の活用方法(BIツール、クラウドなどの基礎知識)
- セキュリティや倫理、法令遵守への意識
- DXを進めるためのマインドセット(挑戦、協働、変化への適応)
このように、もはやIT部門だけでなく、すべての部署で“デジタルに強い人材”が求められる時代になっています。
現場ではスキルの“空白地帯”が広がっている
多くの企業がDX推進を掲げていても、現場の動きが追いついていないケースは少なくありません。その理由のひとつが、現場社員のスキルギャップです。
たとえば、新しいシステムを導入しても使いこなせず、結局アナログ対応に戻ってしまう…。そんな場面に心当たりのある企業も多いのではないでしょうか。
特に中堅以上の社員層では、過去のやり方に慣れている分、デジタル技術に対する抵抗感や不安を抱えがちです。こうした「温度差」が、DXを止めてしまう原因になっています。
また、企業側も「とりあえずeラーニングを導入したが、定着していない」「学習成果が見えにくい」といった悩みを抱えています。
厚生労働省の調査(令和4年度能力開発基本調査)によると、企業の約42%が“教育訓練の効果が見えにくい”と回答しており、スキルアップ施策における“継続性の壁”が浮き彫りになっています。
採用頼みではもう間に合わない時代に
DXに対応できる即戦力人材のニーズは高まる一方ですが、そうした人材の採用はますます困難になっています。
特に地方企業や中小企業では、都市部との競争や条件面での差により、優秀なDX人材を獲得しづらい状況が続いています。
だからこそ今、注目されているのが「既存社員を育てる」=リスキリングという考え方です。
社員はすでに自社の業務を理解しています。その上でDXの基本スキルやマインドセットを身につければ、スピード感を持って“現場で使える人材”へと育てることが可能になります。
これは一時的な研修ではなく、長期的な視点での「人への投資」。企業の持続的な成長のために、今こそ社内のリスキリング戦略を考える必要があります。
一緒に成長できるって強い!企業と社員のWin-Winな関係
スキルアップやリスキリングは、社員個人のキャリアにとってプラスなのはもちろん、企業にとっても大きな価値をもたらします。お互いに得をする“いい循環”が生まれる仕組みを見ていきましょう。
人が育てば組織が変わる
企業にとって、スキルアップやリスキリングによって社員が成長することは、単なる「教育」ではありません。組織の変化や進化を支える“仕組みそのもの”です。
たとえば、以下のような効果があります:
企業側のメリット | 内容 |
---|---|
即戦力を社内で育てられる | 採用に頼らず、業務を理解した人材を育てられる |
業務の効率化と質の向上 | ITツール活用で作業時間が削減、品質も安定 |
離職率の低下 | キャリア形成支援が働きがいにつながる |
チーム力の底上げ | メンバーのスキルアップがチーム全体の力に直結 |
こうした成果は短期では見えにくいかもしれませんが、3年、5年単位で見ると確実に企業力の差につながります。
採用コストを下げ、定着率を上げる
外部からDX人材を採用しようとすると、コストも手間もかかります。それに比べて、社内の人材を育成する方が安定しやすく、ミスマッチも起きにくいのが利点です。
リスキリングによって「この会社でもう一段成長できる」と実感できる人が増えることで、退職の抑止にもつながりやすいというのもポイントです。
スキルを得ることは自信につながる
社員にとっても、リスキリングは決して義務ではなく、「自分の未来を広げるための選択肢」になります。
新しい知識や技術を身につけることで、これまで関われなかったプロジェクトに挑戦できたり、自分のアイデアを形にできるようになったりと、“働くことが楽しくなる瞬間”が増えていきます。
評価制度や役割に反映される仕組みが大事
せっかく学んでも、それが業務や評価にまったく反映されなければ、モチベーションは下がります。
だからこそ、スキルアップがキャリアに結びつく設計が必要です。たとえば、
- 社内資格制度やキャリアパスの明確化
- プロジェクト参加への推薦制度
- 月1回のスキルレビュー面談
といった仕組みを用意することで、「学んだことを仕事に活かせる」という実感を持ってもらいやすくなります。
スキルだけじゃダメ?乗り越えるべき“壁”もある
リスキリングは良いことずくめに見えますが、実際には“うまくいかない理由”も少なくありません。現場ではさまざまな障壁があります。それを理解しておくことが、リスキリング成功の第一歩です。
時間もやる気も足りない…現場のリアルな声
現場の社員にとって、日々の業務で手一杯な中で新しいことを学ぶのは簡単ではありません。多くの人が直面するのは、次のような問題です。
社員側のハードル | 具体例 |
---|---|
時間がない | 業務が多忙で学習に割ける時間がない |
自信がない | ITや新しい技術への苦手意識がある |
意味が見えない | なぜ学ぶのかが自分ごとになっていない |
学びやすい環境づくりがカギ
こうした課題を乗り越えるには、学びを「特別なこと」にしない環境づくりが大切です。
- 動画教材でスキマ時間に学べる仕組みを用意する
- 1回15分で完結するマイクロラーニングを導入する
- 学習の目的をチームで共有して“共通ゴール”を持つ
など、現場目線の工夫が学びのハードルを下げるポイントになります。
教育に踏み切れない企業側の迷い
一方で、企業側にもハードルがあります。特に「教育の成果が見えにくい」「費用対効果が不安」という声はよく聞かれます。
企業側のハードル | 具体例 |
---|---|
成果が見えない | 研修後の変化が定量化しにくい |
コストがかかる | 外部サービスや教材費の負担感 |
優先順位が下がりがち | 目の前の業務に追われて後回しになりがち |
小さく始めて、成功体験を積み上げる
すべての社員に一斉に研修を受けさせる必要はありません。最初は少人数で、成果が見えやすいチームやプロジェクトから始めるのがおすすめです。
たとえば、
- 総務部でRPAを学んで業務自動化に挑戦
- 営業部の若手メンバーがBIツールの活用に取り組む
こうした小さな成功事例を積み上げていくことで、社内に「やれば変わる」という空気が生まれ、徐々に全社展開しやすくなります。
教育を“仕組み”に変えることが大切
リスキリングを単発の研修に終わらせないためには、「学びが仕事とどうつながるのか」を明確にし、学び→実践→フィードバックのループを組み込んだ制度設計が重要です。
中長期で見れば、それが企業の強みに直結します。学びが止まらない会社こそ、変化に強く、選ばれる組織へと進化していけるのです。
明日から使える!社内で始めるリスキリング実践術
「リスキリング」と聞くと、難しそう・大がかりと思いがちですが、実は社内でもすぐに始められる方法はたくさんあります。気負わず、少しずつ取り組むことがポイントです。
小さく始めて、少しずつ育てる
リスキリングの成功は、スタートの仕方で決まると言っても過言ではありません。最初から完璧を目指すのではなく、無理なく始めて“成功体験”を積み上げていくのが効果的です。
無理のない範囲で、できることから
たとえば「業務の合間に見られる10分の動画教材を導入」「若手3人だけで月1回の勉強会を開催」といったシンプルな取り組みでもOKです。重要なのは、学ぶ場を社内の“日常”に溶け込ませること。
- お昼休みに5分だけ視聴できる動画ラーニング
- スキル共有を目的としたSlackのチャンネル運用
- 週1回、先輩社員がTipsを紹介するミニセッション
こういった取り組みからスタートすれば、社員の抵抗感も少なく、自然と学ぶ空気が生まれていきます。
チーム単位で進めると定着しやすい
個人任せにするのではなく、チームで共有しながら進めると継続率が高まります。「この前の内容どうだった?」という声かけが自然と生まれれば、学びが日常会話になっていきます。
また、スキルアップを通じた“チームビルディング”の効果も期待できるため、組織全体が前向きになるきっかけにもなります。
外部サービスや助成金の活用も視野に
社内だけでリスキリングを完結させるのは大変。外部の力も上手に借りながら、無理なく続けられる体制を整えていきましょう。
学習サービスは「分かりやすさ重視」で選ぶ
リスキリングに使えるeラーニングや動画教材は数多くありますが、最初は「簡単」「見やすい」「日常に取り入れやすい」を基準に選ぶのがポイントです。
以下は日本国内で利用実績のあるサービスの一例です(2025年4月現在、全て稼働中):
サービス名 | 特徴 |
---|---|
Aidemy Business | AI・Pythonなどの基礎学習に強い、企業向けオンライン教材 |
Schoo for Business | ライブ形式の授業で、実践的なテーマも多い |
グロービス学び放題 | ビジネス全般・マネジメント系に強みあり |
こういったプラットフォームは、社員のスキルレベルに応じてコースを選べるため、社内に幅広い層がいても対応しやすいのが魅力です。
助成金・補助制度を活用すればコスト負担も軽減
人材育成に活用できる公的支援も年々拡充しています。たとえば、
- 厚生労働省の「人材開発支援助成金(リスキリングコース)」
- 経済産業省の「成長分野を支える人材育成事業」
- 自治体によるDX人材育成補助金(都道府県によって異なる)
などがあり、一定の条件を満たせば教材費や講師費用の一部が支給されるケースもあります。
まずは顧問社労士や地域の商工会議所などに相談して、自社が使える制度がないか調べてみると良いでしょう。
長続きの秘訣はここにあった!成果が出る育成の条件
リスキリングは“継続”が命。どんなに良い教材や研修を用意しても、やりっぱなしでは意味がありません。モチベーションを維持し、育成を「文化」として根づかせるコツを見ていきます。
学んで終わりにしない仕掛けが必要
スキルアップを推進するには、「やってよかった」と実感できるような手応えをつくることが欠かせません。
学びが業務に結びつく仕掛けをつくる
以下のような仕掛けを取り入れることで、学習内容が仕事とリンクし、本人の実感値が高まります。
- 学習後に実務で活かす「ミニプロジェクト」を任せる
- 習得したスキルをチームで共有するプレゼンタイムを設ける
- スキル習得を評価制度や目標設定と連動させる
「勉強のための勉強」にならないように、アウトプットの場を必ずセットにすることが大切です。
小さな成功体験が継続を生む
「動画を1本見た」「チーム内でひとこと共有した」など、学びに対する“ちょっとした達成感”を生み出すことが継続の鍵です。
社内SNSで学び報告をシェアするだけでも、「みんな頑張ってる」という空気が生まれ、やる気の波が広がります。
学ぶ空気を根づかせる工夫
育成が“単発イベント”で終わらないようにするには、企業全体に「学ぶのが当たり前」という空気をつくることが欠かせません。
トップの姿勢がすべてを変える
経営層や部門リーダーが自ら学びを実践している企業では、社員も前向きに取り組む傾向があります。たとえば、
- 役員が毎週1つ学んだことを社内チャットに投稿
- 管理職がeラーニングを率先して受講し、内容を部下に伝える
こうした行動が「学びは現場任せではない」というメッセージになります。
人事や評価制度と連動させる
スキルアップの取り組みを、評価・表彰・昇進制度などと連動させることで、育成が“会社の本気”として伝わります。
- 新スキル取得に応じて評価ポイントを付与
- スキルを活かした業務成果を賞与や表彰に反映
- リスキリング経験者が社内講師になる仕組みを作る
こうした取り組みが、学びを単なる個人努力ではなく、組織全体の成長エンジンとして定着させるきっかけになります。
とある企業の例に学ぶ──うまくいった“育て方”のヒント
リスキリングの取り組みは、理論だけでなく実践が大切です。実際に成果を上げている企業の取り組みから、無理なく社内に取り入れられるヒントを探ってみましょう。
製造業のケース:現場主導で育成プログラムを展開
現場に密着した業務が中心となる製造業では、「机上の学び」よりも「実務に即した学び」が成果につながりやすい傾向があります。
デジタル活用の第一歩は「紙からの脱却」
ある製造業では、ベテラン社員と若手社員が一緒になって業務の棚卸しと“デジタル化できる作業”の洗い出しから始めました。作業日報や品質管理表など、これまで紙で管理していたものをExcelやクラウドツールに置き換え、業務フローの改善につなげています。
この取り組みのポイントは以下の通りです:
ポイント | 内容 |
---|---|
現場が主導 | IT部門ではなく、現場の声を優先して設計 |
小さく始める | 1部署からテスト導入してスモールスタート |
教える立場も現場社員 | 社外講師ではなく、操作に慣れた社員が講師役に |
「教える側」も社員であるため、説明もわかりやすく、受け手の心理的ハードルが下がったという声が多く上がりました。
RPAツールで実感できる成果を
さらに、入力作業などのルーティン業務にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を取り入れ、現場のメンバー自身がシナリオ作成を学ぶ取り組みも実施。最終的に、1日2時間の業務時間削減につながりました。
現場で“成果が見える”ことで、「次はこれも改善できるかも」と前向きな提案が増えていったとのことです。
IT企業のケース:リーダー職へのステップアップ支援
IT企業では、テクニカルスキルだけでなく**マネジメントやファシリテーションなどの“非技術系スキル”**を強化するリスキリングの取り組みが成果を上げています。
役割変更とセットでリスキリングを設計
ある企業では、中堅社員を対象にしたリーダー職候補向けの学習プログラムを導入しました。プログラムは3ヶ月にわたって以下の内容で構成されていました:
- オンライン研修(プレゼン・プロジェクト管理・部下指導など)
- 実業務を通じたチームマネジメントの実践
- 月1回のフィードバック面談
特に効果が高かったのは、「研修内容をすぐ現場で使えるように設計されていたこと」。実践と学びが結びついていたため、“学ぶ意味”が明確になり、受講者の満足度も非常に高かったとのことです。
キャリア設計と人事制度を連動させる
この企業では、研修修了者に対して新たな役職チャレンジの機会を提供しており、「頑張ればポジションが広がる」という見通しがモチベーションの源泉になっていました。
こうした取り組みは、IT企業に限らず、若手社員の離職防止や、社内キャリアの見える化にもつながる事例として注目されています。
どちらの企業にも共通していたのは、「いきなり全社導入せず、小さく始めて、現場に合ったやり方で育成すること」。この柔軟さが、リスキリングを“日常の一部”にしていく秘訣かもしれません。
スキルアップは組織を強くする確かな力
スキルアップやリスキリングは、変化の早い時代にこそ欠かせない土台です。社員が成長すれば、企業も柔軟に進化できます。一人ひとりが新しい知識や考え方を取り入れていくことで、組織全体に前向きな流れが生まれます。難しく考えすぎず、小さな一歩から始めることが、長く続く力になります。